隣のフロアで米寿の看護師、増渕光子(てるこ)さんが認知症予防の体操指導を始めた。できない人が続出する。
「これだけのことが、なかなか覚えられないのよ」
「もう90なんだから、仕方ないのよ」
「いいのよ、いいのよ。忘れないと覚えられないんだから」
できない人の指に、隣の人が手を添える。運営するNPO法人「ゆいの里」代表の飯島恵子さんは「地元で自分らしく暮らし続けていくために、老いも若きもお互いさまでゆるやかに支え合っていきたい」と言う。
なじみ庵のスタッフは、介護福祉士が1人。あとは利用者が、できることを見つけて「仕事」にあたる。食事の喧噪(けんそう)が去ると、元和菓子職人の男性(87)が翌日使う割りばしをはし袋に詰め始めた。
飯島さんは「地域にはプロがたくさんいて、認められていない『もったいない力』がまだまだある。なじみ庵に来て話をするうちに、得意なこと、したいことが見えてくるし、本人もやりたい気持ちになる。『ありがとう』とか『おいしかったよ』とか言われると、役に立った実感もわく。受け身にならないから元気でいられる」と、いい循環を説明する。