駅の案内放送、発車案内表示、車体の前面や側面の表示器にはきちんと表示されているから、不便というわけではない。強いて言えば、動いている状態のLED表示は、従来の方向幕に比べると見づらいと思う。乗車時に確認する分には問題ないとはいえ、せっかく同一路線同一色というシステムを作り上げたところで、この紛らわしさはもったいない。
事情は分かる。車体がステンレスになる以前から、オレンジと緑色は、東海道本線のイメージカラーだった。東北本線、高崎線もそうだ。しかし、3路線とも同じ色にもかかわらず、過去には問題にならなかった。それぞれ、上野駅と東京駅で運行経路が分断されていたからだ。東北本線と高崎線は間違えやすかったかもしれないけれど、上野~大宮間は同じ経路だったし、上野駅、大宮駅では異なるホームを使うなどの工夫もあった。
南北の2つの路線が接続しただけなら、それほど不便ではない。しかし、上野東京ラインの誕生で、途中で経路が分かれて合流する形になっている。本音を言えば、湘南新宿ラインと上野東京ラインで、せめて帯の色を変えるくらいの工夫はほしい。しかしこれも難しい。湘南新宿ラインと上野東京ラインは、車両を使い回している。効率的に車両を使うため、どちらか1つの路線に限定できない。直通運転の便利さと色分けできない事情はトレードオフの関係にあり、現在の方が良い。
こういうことを言い始めるとキリがない。名古屋鉄道も行き先ごとに色を変えてくれたらどんなに便利だろうと思う。しかし、やはり車両を運用する上で難しい。車体の色に機能性を持たせるというアイデアは素晴らしいものだけど、まだまだ改善すべきことは多い。いっそ、車体の帯部分を全てLED化して、走行路線ごとに異なる色に……と思うけれど、かなりお金がかかりそうだ。
私たちは無意識に、車体色の便利さに慣れてしまった。電車に乗るときは、行き先をちゃんと確認しよう。
■杉山淳一(すぎやま・じゅんいち)
1967年東京都生まれ。信州大学経済学部卒。1989年アスキー入社、パソコン雑誌・ゲーム雑誌の広告営業を担当。1996年にフリーライターとなる。PCゲーム、PCのカタログ、フリーソフトウェア、鉄道趣味、ファストフード分野で活動中。信州大学大学院工学系研究科博士前期課程修了。著書として『知れば知るほど面白い鉄道雑学157』『A列車で行こう9 公式ガイドブック』、『ぼくは乗り鉄、おでかけ日和。 日本全国列車旅、達人のとっておき33選』など。公式サイト「OFFICE THREE TREES」ブログ:「すぎやまの日々」「汽車旅のしおり」、Twitterアカウント:@Skywave_JP。