仕事全体に「魂」を込める 職人技と機械生産を繋ぐイタリア流の極意 (1/3ページ)

 ぼくの奥さんはピアノを教えているが、音楽院の先生のレッスンも受けている。最近、先生から衝撃的なアドバイスを受けたという。

 練習しているバッハの曲で、どうしても指を上手く運べないところがある。そう難しくないはずなのに、その部分が苦手で音がペシャッとなる。そこだけ弾けば何ということはないのに、通しで弾くとひっかかる。だからその前から緊張し、なおさら失敗する。

 そうしたら先生が次のように言った。

 「その音符はそれほど重要じゃないから、弾かなくても全体に影響を与えることない」

 奥さんは驚いた。

 「楽譜に記してある音符を飛ばすのが解決策?」

 幼少の頃からピアノを弾き始めてきて、初めて聞いた助言だった。楽譜に忠実になることが第一であると考えてきた。弾けない箇所は繰り返しの練習が唯一の解決策だった。が、今回、楽譜に忠実であるとは曲全体をより良く表現することで、弾きづらい音符の為に音楽を壊すことはない、と教えられた。

 これがきっかけで、ぼくはイタリアの職人の考え方について思いを馳せた。

 日本で職人という言葉から連想するのは、あるモノの完璧な仕上げだ。100%と言ってよい。目に見えるところは当然、目の届かない箇所にも気を配る姿だ。

 その結果なのかどうか、「モノに魂を込める」と職人の仕事は聖なる領域である、という見方がされやすい。 

 しかし、イタリアの職人はモノに魂を込めない。

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