廣瀬智央さんはアーティストである。
この5月、イタリア南部の人口約30万人の小さな州、モリーゼにある文化財団に彼は招かれた。アーティスト・イン・レジデンスである。住居やアトリエを提供され、作品作りに没頭する環境を用意してくれる。廣瀬さんは、財団の第1回目の招待アーティストだった。
アーティスト・イン・レジデンスにおいて作品コンセプトは作家の意思に任されることもあるが、最近は滞在している土地のコンテクストを読み込んだ作品を求められることも多くなってきた。その場合、地域振興が目的になる。
廣瀬さんがこのオファーは受け取った理由を、こう語る。
「イタリア中、ほとんど全ての州を旅したけれど、モリーゼだけは行ったことがなかったんですね。このプロジェクトのことをイタリアの人に話すと、ほぼ全員が『あんなところ何もない』と断言するわけです。誰も行ったことがないのに。これは行ってみるしかない」
一方、廣瀬さんに白羽の矢が立ったのは、コンテンポラリーアートの国際的舞台で活動しているアーティストだからだ。この世界で評価の定まっている美術館の展覧会に出展したことがあること、高い評価を受けるギャラリーに所属する作家であること、これが「国際的舞台」の意味だ。多くの国の貸しギャラリーで個展を何度開催しても評価点には入らない。
もちろん彼の過去の作品からみて今回のプログラムを成功に導いてくれるはず、と判断されたのが大きな理由だ。結果、「今回の作品はモリーゼの市民たちに意味ある刺激を提供することができたと思う」と廣瀬さんは話す。
彼はモリーゼの滞在中に何を考えたのだろうか。