低い視点だと、モリーゼに大小さまざまな集落が点在する風景と群島のイメージがダブる。雨が降って水が溜まると、○が島のように浮いてみえる。
上からみると人の顔だ。小さい口には大きな耳(口数が多いと聞く耳をもたない)。大きな口には小さな耳(聞き上手は口下手)。モリーゼはこれだけ小さな地域に多様な文化がありながら、口と耳のサイズにバランスがとれていることを暗喩している。
ただ、バランスがとれていることが逆にネガティブになることもある。
「ダ・ヴィンチ、カラバッジョ、セザンヌ…歴史上に名が残っているアーティストたちは皆、イノベーターなんだ。君たちも、異なった文化に触れて新しい世界を作るように」と、高校生たちとのワークショップでは10代の子たちの背中を押すことも忘れなかった。
これもアーティスト・イン・レジデンスで期待されるアーティストの重要な役割だ。
以前、米国のアーティスト・イン・レジデンスも経験したことがある廣瀬さんだが、今回の感想を聞いてみよう。
「アーティストに期待されているのは、その土地に住んでいる人たちの先入観や固定観念を崩して欲しい、ということでしょう。それでアーティストの視点が役に立つんですね。ただ、それも全て言葉でもローカルの人たちを説得できないと話にならないです。今回の作品制作の予算も、○のコンセプトを財団の人たちに丁寧に説明して当初の予定の倍にしてもらったのですから」
このように舞台裏を明かしてくれた。成功の秘訣はアーティストの場合でも、人を説得できる言葉をもつことは太字で強調しておきたいことだ。それができないと表現したい作品ができないのである。
(安西洋之)
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【プロフィル】安西洋之(あんざい ひろゆき)
上智大学文学部仏文科卒業。日本の自動車メーカーに勤務後、独立。ミラノ在住。ビジネスプランナーとしてデザインから文化論まで全方位で活動。現在、ローカリゼーションマップのビジネス化を図っている。著書に『世界の伸びる中小・ベンチャー企業は何を考えているのか?』『ヨーロッパの目 日本の目 文化のリアリティを読み解く』 共著に『「マルちゃん」はなぜメキシコの国民食になったのか? 世界で売れる商品の異文化対応力』。ローカリゼーションマップのサイト(β版)とフェイスブックのページ ブログ「さまざまなデザイン」 Twitterは@anzaih
ローカリゼーションマップとは?
異文化市場を短期間で理解するためのアプローチ。ビジネス企画を前進させるための異文化の分かり方だが、異文化の対象は海外市場に限らず国内市場も含まれる。