日本からイタリアに来た当初、吉岡徳仁のデザインが好きだったファッションデザイナーはイタリアのブランド、ジョン・リッチモンドで働いて3年近くになる。
ジョン・リッチモンドのファッションを手掛けるようになって、「削ぐのではなく加える」「隠すのではなく大胆に見せるセクシー」といった、それまで自分が追っていたデザインアプローチと真逆のことを求められ、一生懸命になってその期待に応えた。
好き嫌いを言うより、まずファッションのメインストリームとその周辺で、何をどう感じ考えているか、それらを知ることを優先してきた。
村田晴信さん、26歳である。過去2回、彼のことをこのコラムに書いた。ミラノコレクションの新人登竜門で入賞してジョン・リッチモンドに入る頃が1回目。次はジョン・リッチモンドで1年以上経験した時だ。その1年間でチーフデザイナーの好むパディ・スミスを聞き、肉を食べることが増えた。
しかし、それから2年近くの時間が経て、パディ・スミスは職場でしか聞かず、自宅ではジャズのようなゆったりとした曲を聞く。食事もふたたび薄味になった。それでも吉岡徳仁が現在どのような作品を作っているか、2年前よりさらに関心がなくなった。嫌いになったわけではない。単にイタリアのファッションデザイン体験と距離があり過ぎ、フォローする気になれないだけだ。
そしてこう語る。
「3Dプリンターで服を作るなど新しい動きがありますが、日本にいた頃の自分ならそのブームにのっていたかもしれませんね。でもここで仕事をしていると、『それでどうしたいの?』と思ってしまいますね。右往左往しないことを大切にしたいです」