想像の前に現実をつかみ取る デザインに必要な「観察力」 (1/3ページ)

 高校生の息子のアートの宿題を眺めていて、ふと思い起こした。そういえば小学校の頃から、人物や風景を描く課題がなかった。ぼく自身、小さな頃に親の顔や山や海の風景を描いたが、自発的ではなく先生に言われて描いたような記憶がある。

 とすると、息子が通ってきたミラノの学校の先生はそろって、ぼくが日本で経験したとは異なるテーマを与えてきたのだろうか。

 彼が多く描いてきたのは近現代の名画の模写や建築物だが、中学生の時に学校に行くと、裸婦画の模写が廊下に沢山貼られているのに驚いたことがある。

 これ以外にも描いてきたのだろうが、自分自身の経験とあまりに違うので印象に残っている。ぼくが受けた教育では想像力が強調され、息子が受けている教育は観察力にポイントがおかれている、とそう思えた。

 日本とイタリアのアート教育の違いを語るには、あまりに判断材料が少ないので、ここでは観察力について思うことを書きたい。

 ぼくはデザイナーやアーティストと一緒に出張することも多いが、いつも劣等感に陥るのは、ぼくのカタチに対する記憶力のなさである。

 「これは、先日、あそこで見たデザインだよね」というセリフが彼らからよく出てくる。ぼくにとっては、「あれに似ているかもしれないな」程度のものが、彼らは、「あれと同じだね」とデータで確認することなく、その場で断言する。

 記憶力だけでなく、あるデザインを詳細に見る観察力の欠如なのか。

モーターショーのドアノブを記憶する巨匠

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