徐上将との関係も有り、軍にある程度の基盤を築けた江氏は1998年、軍人が企業に従事する仕組みを禁じようとしたが、軍の猛反発で頓挫した。軍系国有企業は高級軍人らの「副業」、否、「生業」で、巨大な収入源と化しており、民営化はやり方を誤れば、習氏の政治生命ばかりか本当に命に関わる。
ところで、習氏は七大軍区を四戦区に再編する軍改革にも乗り出した。注目は《瀋陽軍区》と《北京軍区》の統合。北京軍区は北京や天津といった直轄市を管轄する党のお膝元で、習氏は司令官に自身と近い宋普選・上将(61)を抜擢した。問題は北朝鮮と陸続きの瀋陽軍区だ。金正恩・第一書記(32)が指導者となって以来、中朝間の不協和音も伝えられるが、朝鮮半島有事で主力を担任する瀋陽軍区は中国共産党中央の頭越しに北朝鮮を各分野で支援。徐上将も瀋陽軍区勤務が豊富だったが、軍区内には反習派=江派の軍人や首長・役人も目立つ。北京軍区との統合で、瀋陽軍区の「軍閥」化を薄めようとしているのやもしれぬ。
習氏は観兵式の演説で「中華民族の偉大な復興の実現」に言及したが、既に「復興」は「実現」している。軍閥の跋扈に軍や役人の腐敗、権力闘争の果ての粛清・暗殺…。中華帝国の成立要件は見事に出そろった。(政治部専門委員 野口裕之/SANKEI EXPRESS)