ジョン・ケージに敬意
もっとも違う点といえば、これまでは影の存在に徹してきた宇川が、ここでは自分自身による本格的な展示を披露していることだろう。もっとも、それとてドミューンと無縁ではない。宇川が開局以来配信してきた1000人のDJによる1000回分の記録を、映像と音と併せて1000のモニターで当時に流すのだ。ただし、1時間に1回ずつ4分33秒間のブレークが入り、すべての音は消え、光は明滅だけに切り替わる。これは、宇川が慕ってやまない20世紀を代表する現代音楽の作曲家、ジョン・ケージの代表作「4分33秒」にもとづく。4分33秒のあいだ、まったく演奏をしないことで大変な物議を醸した20世紀最大の問題作を、宇川はケージ自身を21世紀のDJに見立て、展示の中心に人形化して立たせることで、無音も含めすべてを許容するドミューンの原点として象徴化したのである。しかも、この無音の楽曲を展示に利用するため、宇川はわざわざJASRAC(日本音楽著作権協会)に申請を出して使用料を払ったという。まったくの無音というジョン・ケージのコンセプトを、きっちり音楽として認める試みでもあるのだ。