【アートクルーズ】
世田谷美術館分館の宮本三郎記念美術館が今年で10周年を迎え、これまでの調査・研究を活(い)かして集中的な特集展示を行っている。先日、私が足を運んだのはそのうちの第2期にあたる「従軍体験と戦後の再出発」である。
宮本の画業のなかでも、この時期の仕事をどう評価するかがいちばんむずかしい。それは展覧会のタイトルに表されているとおり、太平洋戦争での従軍画家としての体験と、それを遺憾なく発揮した戦争画の時代を挟むからである。その後の敗戦に及んで宮本の画風は一変する。その変貌ぶりには誰もが驚かされるはずだ。いったい画家の主体とはなんなのか。絵の前に立ち止まって深く考えずにはいられない。
新境地を開くもの
念願であった滞欧での研鑽(けんさん)を経て帰国した宮本は、やがてその腕を買われ、英軍を完膚なきまでに打ち負かしシンガポールを手中に収めた国の誉れ、山下とパーシバル両司令官の会見図を陸軍より委嘱され、期待にみごと応える。