【アートクルーズ】
経済的な繁栄を目指して突き進む現代人たちを、立ち止まらせ、本当の豊かな時間や進むべき道について考えさせる-。そんな彫刻展「保井智貴 佇(たたず)む空気/silence」が、彫刻の森美術館で開かれている。あなたは、彫刻の醸し出す静謐(せいひつ)さに浸ることができるだろうか。
今回の個展のためにつくった新作「空から」は高さ167センチ、等身大の若い女性像だ。長い黒髪と青く光沢のある格子柄の衣装、そして白い靴…。今回はモデルがいるが、像自体はどこにでもいそうな乙女の像。口をむすんで直立する姿は、生身の人間がじっと立っているように見えてくる。
展示されている彫像は、どれも木や石を削ってつくったものではない。乾漆(かんしつ)という技法でつくられている。乾漆とは、阿修羅像で知られる興福寺の「八部衆立像」など7世紀末から8世紀にかけての天平文化で、仏像をつくるのに用いられた技術だ。粘土で作った像をもとに石膏で型を取り、その上に麻布と漆(うるし)を何度も塗り重ねて像にする。その工程は4カ月以上もかかるという。