「国家への愛」「家族への愛」「部下・同僚への愛」の《三流》は、同じ価値観《一源》から派生していると、大谷さんは固く信じているのだ。
女性自衛官に話を聴いていると「母親の『わが子を守らなければ』という母性本能が、国家を守る使命感を強固にする」と感じることが少なくない。わが子の笑顔を思い出し、勇気百倍奮い立つのである。
実のところ、今回は2回目の艦長就任だった。ただ「前回は武装してはいるものの、練習艦で任務が違う。女性初の護衛艦艦長は荷が重く、失敗すれば、後に続く女性自衛艦に迷惑がかかる」と、緊張の連続だ。だからこそ、《一源三流》の士気統率方針の下、艦と乗組員の実力を最高度にまで高めて乗り切ろうとしている。
「自ら部下の懐に入っていく。昔の艦長はドーンと座って、部下は艦長の背中を見て判断し、育っていった。今の若い人は、情報社会の中で多様な価値観を持つ。こっちに向けと言っても、向かぬこともある。話題を合わせる積極性も必要だ。例えば、私自身ゲームはしなくても『どんなゲームをするの?』などと、話しかけています」
2月下旬の艦長就任以来、220人もの部下の顔/名前/配置を、1カ月強で覚えたのも《一源三流》に忠実だった証左に違いあるまい。
とはいえ、艦内には《CPO=先任海曹室》が在る。CPOは上級・古参の下士官専用の「特別室」。たたき上げの上級下士官は職人技を持ち、艦のクセや「水兵さん」の私生活まで知り尽くしたプロ中プロ。艦長によっては、恐れをなして必要最低限しか訪ねないが、大谷さんはここでも「攻勢」に徹する。