【野口裕之の軍事情勢】
海上自衛隊で初めて護衛艦の女性艦長が誕生したと聞き、神奈川県横須賀市に係留中の《やまぎり》の艦長室を訪れ、大谷三穂2等海佐(45)に取材した。女性将兵の増加は世界的傾向だが、増加に伴い「母性保護」問題が浮上する点もまた、世界的傾向だ。しっかりとしたメディカルケアや、結婚・出産後も仕事を続けられる体制の拡充が不可欠な状況も、自衛官以外の働く女性が直面する課題と基本的に変わりはない。
ただ、戦闘艦で長期の海上勤務に就く大谷さんはじめ武器を取り扱う女性自衛官は、他の働く女性はもとより、男性社会人とも精神・肉体上の負担・苦痛を異にする。海外派遣や危険な任務が増え、家族の理解と支えは重要度を増したが、限界や個人差も立ちはだかる。
練習艦のナンバー2=副長に初めて就き、半年間の遠洋練習航海に行くと告げた際も、7歳だったまな娘は「行っちゃヤダ」と泣いた。ところが、「ママは艦長になりたいの。副長にならないと、艦長にはなれないの」と言って聴かせると、ややあって、しゃくり上げながらも母を見上げ、声を絞り出した。
「ママが艦長になりたいなら、行って…」
大谷さんは「母の夢を子がかなえてくれた」と振り返った。