ただ待ち続けること
ずっと以前、まだ大学生の頃、つまり現在から20年ほど前に、友人と渋谷駅で待ち合わせした日のことを思い出す。私は待ち合わせそのものをすっかり失念しており、自宅で眠り込んでいた。確か待ち合わせはお昼の少し前だったはずだ。はっきりとした目的は忘れてしまったが、ほぼ毎日のように会っている同級生であり、劇団の仲間だったので、多分映画でも見てお茶しようというような、ごくごく日常的な待ち合わせだったと思う。まあいずれにしても私は完全に忘れてしまっていて、午後まで眠り続けた。目が覚めてしばらくすると、不安感が募る。だんだんと、あれ、今日何かあったような気がしてくる。はっと思い出した頃には待ち合わせ時間は2時間以上過ぎている。さすがにもう待っていないだろうと思いながらも、私は急いで駅へと向かう。
果たして彼はそこにいた。
彼の足下には無数のたばこの吸い殻が転がっていた(当時はまだ現在ほど喫煙者に厳しくない時代でした。彼がたばこを吸っていたのはなにせ駅の構内ですから。時代は移ろうのです)。私は謝る言葉も見つからずに彼と対峙(たいじ)した。彼は、煙をゆっくりと吐き出してから、ひとこと。