【続・灰色の記憶覚書】
昨年少々忙しくし過ぎてしまったので、今年は多少強引になってもたっぷり休んでやろうと目論み、上半期は殆ど予定を入れないつもりでいたのだけれど、あまりにも楽しそうなドラマへの出演依頼に簡単に飛びついて、わっせわっせと久々の俳優業に精を出している春の最中、どういうわけか演出助手をやらないかという話が舞い込んできた。
演出助手のオファー
演出は随分としてきたが演出助手をしたことはこれまで一度もない。何かの間違いなのかと思ったがこれがちっとも間違いでなく、コクーン歌舞伎「三人吉三」の演出助手をやらないかという本気のオファーだったのだ。
コクーン歌舞伎は私にとって非常に大きい。
まず私が初めて歌舞伎に触れたのはこのコクーン歌舞伎の第一弾「東海道四谷怪談」であったことが大きい。ややこしく遠くのものだと考えていた歌舞伎は、妖しさを孕(はら)むとてつもないエンターテインメントなのだと認識させてもらったのだから。そして「三人吉三」「夏祭浪花鑑」は文句なしに、十の指に入るほどの素晴らしい劇体験となっている。今は亡き中村勘三郎に痺(しび)れ、彼を取り囲む兄弟たち息子たち仲間たちに痺れ、串田和美の常識破りでいて核心を突くダイナミックな演出に痺れまくったこと。これはもうとてつもなく大きい。