【続・灰色の記憶覚書】
捏造、改竄された物語
湯河原について考えている。
と言って、湯河原がどんな様子なのかほとんど知らないのである。湯河原は私の幼い頃の記憶の断片と、おそらくは捏造(ねつぞう)された、改竄(かいざん)された物語によってのみ形作られている。子供の頃に何度か、あるいは何カ月か(すでにこの時点で曖昧なのだ!)滞在していたはずだ。季節は夏。これは確かだ。私はおそらく3歳か4歳ほどで、Kという女性と一緒に泳いでいた。というのは、私の母は筋金入りの金づちなので海に入るということは有り得ない。ゆえに私はKとともに、ゴムボートのような浮輪のようなもので水面を漂い、恐らくは多少泳ぎもして、しばらくして波に飲まれて、命からがら砂浜に戻って泣きわめき、海で泳ぐのが嫌いになった。という物語が出来上がっているのだが、真相はわからない。金づちの母親から見ると、私は溺れて瀕死(ひんし)のように映ったのかもわからないが、Kにしてみれば、ちょっとひっくり返っただけで、取り立てて騒ぐ程のことでもないと捉えていたのかもしれない。