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曖昧だけど確かに存在する自分だけの湯河原 長塚圭史 (1/4ページ)

2014.10.14 15:40

この海の向こうに、私の記憶の中ではなく、現実の湯河原があるのだ=2014年10月2日(長塚圭史さん撮影)

この海の向こうに、私の記憶の中ではなく、現実の湯河原があるのだ=2014年10月2日(長塚圭史さん撮影)【拡大】

  • 【続・灰色の記憶覚書(メモ)】演出家の長塚圭史さん(提供写真)

 【続・灰色の記憶覚書】

 捏造、改竄された物語

 湯河原について考えている。

 と言って、湯河原がどんな様子なのかほとんど知らないのである。湯河原は私の幼い頃の記憶の断片と、おそらくは捏造(ねつぞう)された、改竄(かいざん)された物語によってのみ形作られている。子供の頃に何度か、あるいは何カ月か(すでにこの時点で曖昧なのだ!)滞在していたはずだ。季節は夏。これは確かだ。私はおそらく3歳か4歳ほどで、Kという女性と一緒に泳いでいた。というのは、私の母は筋金入りの金づちなので海に入るということは有り得ない。ゆえに私はKとともに、ゴムボートのような浮輪のようなもので水面を漂い、恐らくは多少泳ぎもして、しばらくして波に飲まれて、命からがら砂浜に戻って泣きわめき、海で泳ぐのが嫌いになった。という物語が出来上がっているのだが、真相はわからない。金づちの母親から見ると、私は溺れて瀕死(ひんし)のように映ったのかもわからないが、Kにしてみれば、ちょっとひっくり返っただけで、取り立てて騒ぐ程のことでもないと捉えていたのかもしれない。

湯河原の砂浜は灰色の砂浜

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