【続・灰色の記憶覚書(メモ)】
家の中で、ちょっと周りを見回してみるだけでいい。
例えば私の目の前には額縁に入れられたポスターがあって、これはパリで夜中まで続くサーカスを見た際に、妻が貰(もら)ってきたものだ。この夜は串田和美ご一家と別のサーカス団の座長も一緒で、トルコ料理をつまみながらゆるゆると、力の入りすぎぬ踊りやアクロバットを眺めていた。確かあまりにも終わりが見えないので途中で席を立ったのだ。その隣にある沢山の小さな籐の籠を編み合わせたランプは、中国に住む建築家の友人が作ってくれたものだ。中国ではコオロギなどの虫の声を競い合うという道楽があるのだが、籠はそれ用のものだそうだ。その横に置かれた東洋柄の箱、あれはどこで手に入れたものだろう。あそこに飾った珍しい泡盛の瓶はV嬢から頂いたもの、だけどあの少し進んでいる黒い丸形の時計はいつからある? あの地中海風の水差しもいつからあるかわからない。カーテンは覚えている。この家に来たときに、まずカーテンからつけたのだから。