【続・灰色の記憶覚書】
さて、前回、前々回に引き続きコクーン歌舞伎「三人吉三」で演出助手を務めた私の思い出話に華を咲かせている。
前回は下座(げざ)なしでの歌舞伎の難しさというお話だった。これは伝統的に下座なしの歌舞伎はなかった、ということだけには留まらない。歌舞伎役者は音でさまざまな決め事をしてゆく。決めぜりふがあって見得(みえ)あって三味線入って次の場へという約束事で進んでゆく。なので何処でせりふを入れるかも含め、下座の合図抜きの間合いを見つけてゆかねばならず、慣れた人にとっては大変にやりづらい。今回は私を含めて歌舞伎初心者が多いから気にする人は少ないが、実は歌舞伎役者にとっては気持ち悪いことだらけだったのだ。主演で出番の多い(中村)勘九郎さん七之助くん(尾上)松也くんらの違和感といったらないのだろうに、全くそういった様子を見せないのは彼らの潔さというか、串田和美演出に一切乗る覚悟だ。