図書館はマスメディアと同じく、書物を通して社会情報を市民に仲介する重要な施設である。マスメディアが主として現在起きていることを報道するのに対し、図書館はこれまでの人類の知的財産の宝庫であり、とりわけ子供にとっては小さいときにどういう本を読むかで人生が変わる。
国連の統計でもネパールは世界の最貧国の一つで、首都の小学校でも机がないところがあったし、筆記用具も不足している。田舎へ行けば、校舎のない木陰の学校は当たり前だった。インドを経由した子供の身売りはいまなお少なくないという。その犠牲でエイズに感染し、ネパールへ戻ってきた娘たちを助ける施設もある。
米国で奴隷解放運動に取り組んだ第16代大統領エイブラハム・リンカーンは「私の知りたいことは書物の中にあり、私に読むべき本をくれた人が私の恩人だ」という言葉を残した。
民間の善意が作った図書館が大阪で企業研修した経験を持つシャルマ館長の努力と合わさって、ネパールと日本の「絆」を深めることに貢献していることがうれしい。(同志社大学社会学部教授 渡辺武達(わたなべ・たけさと)/SANKEI EXPRESS)