乗務員の高齢化や初乗り運賃値下げの動きなど厳しい経営環境が続くタクシー業界。三和交通は柔軟なアイデアに伴う斬新なサービスを次々打ち出し、顧客と人材の獲得につなげている。成熟産業と呼ばれて久しいタクシー業界の中で存在感を高めながら、「サービスで選ばれるタクシー会社を目指す」(吉川永一社長)と意気込む。
顧客目線を重視
「ふとした思いつきがサービス向上につながる」。平成25年に始めたゆっくり走る「タートル(亀)タクシー」は、吉川社長と社員との会話で浮かんだアイデアを具現化したものだ。
タクシー利用者の中には、急発進や急加速を敬遠し、安全運転を望む人も一定の割合で存在するが、「運転手に対して『ゆっくり走って』と言いづらい」ことがアンケート結果から判明した。ゆっくりした速度での走行を望む乗客が後部座席に設置されたボタンを押すと、運転席のランプが点灯。乗務員が速度を落とすといった仕組みだ。
「タクシーは急いでいる人が利用する」とした従来の発想を覆した「タートルタクシー」はたちまち話題となり、この年の「グッドデザイン賞」を受賞した。
タートルタクシーの展開を決断した背景には、「タクシー利用者が大きく変貌しつつある」(吉川社長)ことに気付いたからだ。高齢化の急速な進展で高齢者が医療機関に通うためにタクシーを利用するケースが増加。高齢者は安全運転を望む傾向があり、そこに着目したタートルタクシーは、リピーターの獲得にもつながっている。