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再生エネ買い取り、制度見直しも前途多難 送電網パンク危機、電気代に「しわ寄せ」

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再生エネ買い取り、制度見直しも前途多難 送電網パンク危機、電気代に「しわ寄せ」

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 2012年7月に導入された再生可能エネルギーの固定価格買い取り制度が、わずか2年余りで行き詰まった。太陽光などの設備が電力会社の受け入れ能力を超えるペースで増え、九州電力や東北電力など電力5社が再生エネの新規受け入れを中断せざるを得なくなってしまったのだ。原子力発電所の再稼働が遅れる中、代替電源や地球温暖化ガスの排出削減につながるとして期待されただけに、再生エネの導入を推進してきた自治体や事業者は戸惑いを隠さない。政府は制度の見直しに入ったが抜本的な対策には課題も多く、事態の打開は容易ではない。

 電気代に「しわ寄せ」

 「制度設計に失敗したのではないか」。経済産業省で今月15日に開かれた総合資源エネルギー調査会新エネルギー小委員会(委員長・山地憲治東京大名誉教授)で、委員から厳しい批判の声が上がった。買い取りの申請分を全て接続すると送電容量を上回り、最悪の場合は大規模停電を招く可能性もある事態は、想定すべきリスクの一つではなかったのかという指摘だ。

 11年3月の東日本大震災後、定期検査などで停止した原発が再稼働できない状況に陥り、政府は太陽光など再生エネの買い取りを電力会社に義務付ける制度を導入した。だが、代替電源の一つとして期待された再生エネの拡大を急ぐあまり、「見切り発車」となった感は否めない。九電や東北電に加え、北海道、四国、沖縄の電力3社も買い取りの中断に踏み切った。

 「事業計画が狂った」「損害賠償請求をする」。買い取り手続きの中断について、九電が福岡、佐賀、大分各市など6カ所で1日開いた説明会では発電事業者が九電幹部に詰め寄り、怒号が飛び交う場面もあった。

 九電は9月25日に買い取りの受け付けを一時停止した。しかし、事業者が爆発させた不満の大きさに慌てた九電は10月21日、出力50キロワット未満の小口の電力については買い取り手続きを再開すると発表。電力の安定供給に対する影響が比較的少ないと判断したためだが、対象は中断を発表した9月24日までの申し込み分に限定した。

 再生エネの発電設備は、制度開始から今年3月末までに約900万キロワット分の稼働が始まり、このうち9割超を買い取り価格の高い太陽光発電が占める。特に九州は土地のコストが比較的安く、日照時間が長いことから太陽光の導入申請が集中した。

 国民負担の問題も大きい。経産省の試算によると、この2年間に認定した再生エネの設備が全て稼働したと仮定すると、買い取り総額が現状の約4倍にあたる2兆7018億円に膨らむ。買い取り費用は電力会社が家庭や企業の電気代に上乗せして回収しているため、標準家庭で1年当たりの負担額は現在の約2700円から1万1000円余りに跳ね上がる計算だ。

 送電網増強など検討

 既に経産省は制度の見直しに向けた議論に乗り出した。導入される再生エネが太陽光に偏重している現状を解消するため、地熱や風力などをいかに拡大させるかが課題となる。年内に一定の結論をまとめ、年明けをめどに始まる15年度の買い取り価格の議論に反映させる方針だ。

 改善策として、電力会社が発電事業者に送電の一時停止を要請できる「出力抑制」の仕組みの拡大をはじめ、蓄電池や揚水発電の活用、送電網の増強などが検討対象に挙がっている。

 ただ、送電網を強化する新規投資は全国で数兆円規模に上るとされ、制度の抜本的な見直しには法改正も必要になるとみられ、一定の時間がかかる。温暖化ガスを出さない「国産」の再生エネは環境負荷が小さく、安倍晋三政権は4月に策定したエネルギー基本計画で再生エネの導入加速を打ち出したばかりだが、資源に乏しい日本の将来を支える重要なエネルギーだけに「拙速ではなく長期的な視点で普及を促す制度が欠かせない」とする有識者は少なくない。(大柳聡庸)

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