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川崎重工業、水素ガス混焼ガスタービン技術開発 NOx排出を抑制

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川崎重工業、水素ガス混焼ガスタービン技術開発 NOx排出を抑制

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川崎重工のガスタービンと燃焼器の位置  川崎重工業は、工場で副次的に生産される水素ガスを有効利用しながらNOx(窒素酸化物)の排出を抑えられる水素ガス混焼ガスタービン技術を開発した。

 燃焼温度を低く抑えることでNOx排出量を削減できるドライ・ロー・エミッション(DLE)燃焼器をガスタービンに搭載することで、副生水素ガスを60%まで天然ガスに混ぜて燃焼しても、排ガスに含まれるNOx値を天然ガス焚き並みの25ppm(1ppmは100万分の1)以下に抑えることができる。DLE燃焼器に、パイロットバーナーやメーンバーナーから噴出される燃焼ガスに加えて、追焚きバーナーから空気と燃料を投入することで燃焼の持続が難しい条件下でも燃焼を維持できる「追焚き燃焼方式」という独自方式を採用することで実現した。

 発想を変え60%混焼実現

 同社はパイロットバーナー、メーンバーナー、追焚きバーナーの多段バーナー構成によるDLE燃焼器を開発・実用化している。

 既存のDLE燃焼器は、低排出の燃焼をさせるため、あらかじめ最適な燃料を空気と混ぜて燃焼させる「予混合希薄燃焼」方式をとるものが多い。しかし火が消えやすいか、あるいは火が燃焼域より上流の予混合部まで戻って燃焼器を溶かしてしまう「逆火」という現象が生じやすいという課題があった。このため予混合部には「1%程度の水素を入れるのがやっとだった」(ガスタービン・機械カンパニーの笠正憲ガスタービン開発部長)。

 そこで、実績のあるDLE燃焼器をベースに、パイロットバーナーとメーンバーナーは天然ガス焚き用、逆火などのリスクの低い追焚きバーナーは水素ガス焚き用に改良。これにより、使用する全燃料の体積当たり60%に相当する水素ガス混焼を実現。宇宙航空研究開発機構(JAXA)の高温高圧燃焼試験設備で低NOx性能を確認した。

 「発想を変え、予混合部ではなく、独自開発の追焚きバーナーに水素を入れることで、安定して60%の水素混焼が可能になった」と笠部長は説明する。

 開発途中には苦労もあった。「水素を追焚きバーナーに投入するところまでは比較的容易に進んだ」が、水素の特性からNOxの増加を抑えられなかった。ノズルを改造して試験を行ったが、ノズルを溶かしてしまうハプニングも経験。このため、さまざまなバリエーションを検討することになったが「試験に先立って詳細に解析したため、短期間で正解に達することができた」という。

 来年度から営業展開計画

 開発した水素ガス混焼ガスタービンは、石油精製工場や石油化学工場から発生する未利用の副生水素ガスを有効利用できる。このため天然ガス使用量を減らし、CO2を削減できる。また水素ガスを体積当たり0~60%の間で、任意の割合で利用可能なため、顧客の副生ガスの発生状況に自在に対応できる。

 笠部長は「イニシャルコストは水素を燃料として扱う系統が増えたため高くなるが、天然ガスの燃料費を大幅に減らせる」とメリットを強調。NOx排出値が低いため、脱硝設備が不要、あるいは脱硝率を下げることが期待でき、ランニングコストも低減できる。

 同社は今後、一層の低NOx化に向け技術開発を進める。この技術を導入した3万キロワット級の高効率ガスタービン「L30A」を来年度に投入する計画で、石油精製や化学工場といった余剰の副生水素ガスを持つ顧客をターゲットに営業を展開していく。(那須慎一)

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