屋根を支える2本の「キールアーチ」は、長さ400メートルにも及ぶ鋼鉄製で、会場付近に接合のための工場を建設することが必要だった。アーチは地中で固定して屋根を支える特殊構造で、アーチを含めた屋根部分の総工費は950億円。12年にデザインを国際公募した際には「1300億円程度」という条件をつけていた。ところが、今年6月29日に文部科学省が正式発表した総工費は2520億円まで膨らんだ。
下村博文(しもむら・はくぶん)文科相は「既存計画を進める以外ない」と強調。文科省もIOCでの首相演説などを根拠に「ザハ氏のデザインは国際公約」などと譲る気配はなかった。ただ、首相は周辺に「アーチが無駄遣いの象徴のようになっている。世論が持たないかもしれない」と懸念を口にするようになっていた。
にもかかわらず、首相がもう少し早く決断を下せなかったのには理由があった。ザハ氏のデザインを白紙撤回し、コンペから全てやり直した場合、設計段階で1年半を要する可能性が高く、五輪の開催に支障が出る懸念があった。