「2人でたばこを吸いながら、ホン監督の学生時代のことなどの話をした記憶があります。話の流れで、ホン監督は『僕の新作に出てみないか』と誘ってくれました。帰国後もメールで連絡を取り合い、映画化へと動き出しました。監督とは感覚的に合ったんでしょう。僕にとってうれしい出会いでした」。ホン監督の「大ファン」を公言する加瀬は懐かしそうに振り返った。
ホン監督は俳優に対し、撮影当日に結構な分量のせりふを盛り込んだ台本を手渡し、わずか30分程度で暗記させた後、簡単なリハーサルを経て、すぐに撮影に入るという独特な手法を取った。結果的に普段着の加瀬たちの表情がみずみずしく切り取られているのも納得できる。
加瀬は撮影が楽しくて仕方なかった。「何かを準備して撮影に臨むというよりも、撮影現場で何かを次々と体験していくという感じに近かったですね。世界中を見渡しても、こんなスタイルを取る映画監督はいませんよ」。出来上がった作品を見て、加瀬はさらに驚いた。作品はソウル到着から日本への帰国までを描いており、撮影もほぼその順番で行われたはずなのに、完成品は時系列がばらばらになっていたのだ。「想定外のことでしたが、いろんな解釈ができる面白さがあります。僕は何度も見直しましたよ」