【書評】『ルビッチ・タッチ』ハーマン・G・ワインバーグ著、宮本高晴訳 (1/2ページ)

2015.6.7 10:08

 ■天才喜劇映画作家の魅力

 巨匠小津安二郎に始まり、プレストン・スタージェス、ビリー・ワイルダーからウェス・アンダーソンに至る数多の逸材が師と仰いだ天才喜劇映画作家エルンスト・ルビッチの魅力を余すところなく伝える古典的な名著の邦訳である。かつてジョナス・メカスは『メカスの映画日記』の中で次のように書いている。

 「ワインバーグの本は禁止されるべきだ。彼は映画に対するあまりにも大きな愛をほとばしらせて書くので、読者はそれを読み、どこで、いつ、ここに出てくる映画を見ようかと考えて気が狂ってしまうのだ。私はいま、『ルビッチ・タッチ』を読んでいる最中だが、これ以上耐えられない。明日『寵姫ズムルン』を見るか、この本を棄てるかのどちらかだ」

 メカスの形容には何ら誇張はない。本書を読み終えると、すぐさまルビッチの映画を見まくりたいという衝動を抑えきれなくなるからだ。著者は、サイレント時代からハリウッドへ招かれ、トーキー以降、並ぶものなき巨匠となったルビッチの軌跡を丹念にたどりながら、個々の作品の魅惑をディテール豊かに掬(すく)い上げてゆく。

未見にもかかわらず、軽妙な〈ルビッチ・タッチ〉のイメージが脳裏に立ち昇ってくる

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