【書評倶楽部】ジャーナリスト・永井多恵子 『アルジャーノンに花束を 新版』 (1/2ページ)

2015.5.30 11:50

永井多恵子さん

永井多恵子さん【拡大】

  • 『アルジャーノンに花束を新版』ダニエル・キイス著、小尾芙佐訳(ハヤカワ文庫・860円+税)

 ■人間性を欠く知能なんて…

 読み終わってしばらく、縁側から見える風景をみていた。樹木があり風があり、遠くから聞こえる子供たちの声があった。人はそうと気づかず、人を傷つける。わが子に対してさえも、いや、わが子だからこそ、なのかもしれない。

 著名な本だ。上演された舞台も見ていたし、テレビドラマとして、オンエア中でもある。しかしこの物語は主人公チャーリーの書く克明な記録として描かれる文を読むことをお勧めする。

 「アルジャーノン」というのはねずみの名前だ。脳手術によって高い知能を備えた実験動物。難しい迷路をクリアできる。そして人間にもそれが可能か、チャーリーが実験台にのぼることになる。彼のIQは70、母親の強い欲求によって彼は「賢くなりたい」と熱望した。「あたしなら、どんな得があっても脳なんか、いじらせたりしない」という親切な看護婦の意見があったにもかかわらず…。

 もしかすると初めは読みにくいかもしれない。チャーリーの文章が幼児語に近いからだ。知能が上がっていくに従って洗練された文に変化してゆく。IQ170、彼は高度な論文を読みこなし、彼自身で「この実験は失敗だ」と論破する。と同時に彼は知能と感情のバランスを崩し、過去の幻影に悩まされる。それは幼い頃のある光景-妹を溺愛しチャーリーを白痴呼ばわりした母親の憎しみの表情だ。

次第に知能が低下し記憶を失っていくチャーリー

産経デジタルサービス

産経アプリスタ

アプリやスマホの情報・レビューが満載。オススメアプリやiPhone・Androidの使いこなし術も楽しめます。

産経オンライン英会話

90%以上の受講生が継続。ISO認証取得で安心品質のマンツーマン英会話が毎日受講できて月5980円!《体験2回無料》

サイクリスト

ツール・ド・フランスから自転車通勤、ロードバイク試乗記まで、サイクリングのあらゆる楽しみを届けます。

ソナエ

自分らしく人生を仕上げる終活情報を提供。お墓のご相談には「産経ソナエ終活センター」が親身に対応します。