■人間性を欠く知能なんて…
読み終わってしばらく、縁側から見える風景をみていた。樹木があり風があり、遠くから聞こえる子供たちの声があった。人はそうと気づかず、人を傷つける。わが子に対してさえも、いや、わが子だからこそ、なのかもしれない。
著名な本だ。上演された舞台も見ていたし、テレビドラマとして、オンエア中でもある。しかしこの物語は主人公チャーリーの書く克明な記録として描かれる文を読むことをお勧めする。
「アルジャーノン」というのはねずみの名前だ。脳手術によって高い知能を備えた実験動物。難しい迷路をクリアできる。そして人間にもそれが可能か、チャーリーが実験台にのぼることになる。彼のIQは70、母親の強い欲求によって彼は「賢くなりたい」と熱望した。「あたしなら、どんな得があっても脳なんか、いじらせたりしない」という親切な看護婦の意見があったにもかかわらず…。
もしかすると初めは読みにくいかもしれない。チャーリーの文章が幼児語に近いからだ。知能が上がっていくに従って洗練された文に変化してゆく。IQ170、彼は高度な論文を読みこなし、彼自身で「この実験は失敗だ」と論破する。と同時に彼は知能と感情のバランスを崩し、過去の幻影に悩まされる。それは幼い頃のある光景-妹を溺愛しチャーリーを白痴呼ばわりした母親の憎しみの表情だ。