■百歳はこの世の治外法権
美術家の篠田桃紅さんにさる婦人雑誌の対談でお目にかかったのは、およそ30年前のことになる。
「若竹のようでいらっしゃる」。それが、初対面の桃紅さんの第一印象だった。背がすらりと高いしゃっきりとした着物姿の桃紅さんは、実に気さくに現代美術の知識に乏しい私に話しかけてくださった。今回刊行された本を手にして、しみじみとなつかしかった。本の帯のカラーの写真の桃紅さんの横顔は、やはりきりりと若竹の感じがした。渋い利休ねずみのような色合いの着物も、30年前にお召しになっていたものと、似て感じられた。103歳になられたことに正直びっくりすると共(とも)に、いつまでも若竹の雰囲気をそのままたたえていらっしゃることがうれしかった。
生涯、家族を持つことなく独身を貫かれてきた桃紅さんは、どこの美術家団体にも所属することなく自由に仕事をされてきた。その桃紅さんが100歳となり、自由の範囲が無限に広がったように思うと書いていらっしゃるのだった。「この歳になると、誰とも対立することはありませんし、誰も私とは対立したくない。百歳はこの世の治外法権です」とある。治外法権とは大変ユーモラスなたとえのように思う。しかし桃紅さんがその境地に達するまでの孤独に徹した道のりは、実に厳しいものがあったことを考えずにはいられない。