■ブームの理由は生活哲学
ムーミン、北欧ミステリー、北欧映画祭-最近はたいへんな北欧ブームである。フィンランドで撮影された映画『かもめ食堂』は「行ってみたいロケ地」第1位らしいし、一昨年の村上春樹のベストセラー小説も、後半の舞台はフィンランドだった。日本人は、なぜこんなに北欧が好きなのだろう。その答えの一端が、ここにあるかもしれない。
本書は、今年生誕150年を迎えたフィンランドの作曲家シベリウスとニルセンを中心に、北欧音楽への愛情だけで全頁を埋め尽くした、素晴らしいガイドブックである。書名の「ポホヨラ」とは「北方」の意味。著者は日本シベリウス協会会長で、フィンランドでも活躍している指揮者だ。
私は以前から、シベリウスの交響曲第一番の冒頭に付いている、寂しげなクラリネット独奏を不思議に感じていた。あれに何の意味があるのだろうか、なぜ作曲家は、あの後の、森と湖を思わせる美しい弦のトレモロ(反復音)から始めなかったのだろうか、と。その意味を著者は、こんなふうに教えてくれる。
「『ひとり』というコンセプトは、フィンランドの文化において大切なもの。『自分でやる』『自己責任』という日常における生活哲学」が北欧にはある。あのクラリネット独奏は「その生きる哲学の意思表示」だというのだ。