平成7年、石炭ガス製造所が閉鎖。フルオレン研究も停止を命ぜられた。同所の研究員たちも散り散りになる。
「このまま終わりにしたくない」。そのとき一部の研究員が、生成したフルオレンと実験器具などをリヤカーに詰め、資材倉庫に運び込んで隠した。半年後、倉庫の整理作業の際に見付かってしまう。本社に呼び出しを受けた研究員たちが優れた技術や可能性などを訴え、急転直下、研究の継続が決まった。
ただ、フルオレンが優れた光学特性をもつことは分かっていたものの、商品への使い道が見つからなかった。眼鏡のレンズやプリンターの基板樹脂などへの活用を模索したものの、技術面などでなかなか実用化には至らなかった。
そのなかでデジタル時代の到来が状況を一変する。より小型化が求められる携帯電話のカメラ。屈折率の高いフルオレン由来の樹脂を使ったレンズは、打って付けの素材だった。また、大量生産すればコストダウンも図ることができる。フルオレンがにわかに脚光を浴び始めた。大ガスケミカル企画部の奥谷巌根副部長は「デジタル化の時代で波に乗った」と話す。