浅木たちは試行錯誤の結果、衝突してもエンジンの隙間にエアコンの発電機やコンプレッサーなどが潜り込む新構造を編み出し、エンジンルームの大幅な縮小に成功。さらに小型車「フィット」で採用したホンダ独自の「センタータンクレイアウト」を取り入れ、本体の中央に燃料タンクを置くことで、軽として最大級の室内空間、そして女性が自転車を難なく積み込める低床を実現した。
浅木は、勝因の一つにエンジニアたちの意識改革を挙げる。「これまで自分の担当のことしか考えていなかったエンジン屋、衝突屋、パッケージ屋などの各エンジニアが頭を寄せ合ったことが大きい。かつてのホンダの伝統が息を吹き返した」
ホンダは“同じ釜の飯を食う”といった古き良き伝統、男の世界が持ち味だった。だが、会社が大きくなるにつれ、こうした意識が薄らいでいった。「N BOX」の開発は、東日本大震災で栃木県の開発拠点が被災し、担当全員が鈴鹿製作所に結集、寮に泊まり込んで文字通り“同じ釜の飯を食う”生活を実践した。