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東北を知り、震災に思いはせて 渡辺えり、大沢健 舞台「天使猫-宮澤賢治の生き方-」
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「震災を忘れないため、東北を知ってほしい」と話す演出家の渡辺えりさん(左)と俳優の大沢健(けん)さん=2014年10月4日午前、東京都世田谷区(宮崎裕士撮影) 東北出身の劇作家、渡辺えり(59)が、東日本大震災直後に書き下ろした作品「天使猫」〈オフィス3◯◯(さんじゅうまる)公演〉を2年ぶりに再演する。宮澤賢治と猫をモチーフにしたファンタジーで、メーンとなる天使猫に大沢健(けん、39)を起用した。賢治の出身地である岩手県で19日に初日を迎え、23日からは東京公演、ほか石巻や福島、仙台と、前回はかなわなかった、東北地方の被災地をくまなく回る。
「震災を忘れてはいけない。風化させないためにはまず、東北のことを知ってもらわなければ」と、渡辺は岩手県出身の宮澤賢治を取り上げた理由を話す。震災の起きた2011年に「何かしなければ」という思いにつき上げられて書いたという。題材探しで東北について調べているうち、賢治に行き着いた。
物語は震災直後のがれきの現場から始まり、宮澤賢治が残した言葉を散りばめながら賢治の生涯を描く。被災者を救う天使を猫にだぶらせた、時空を縦横無尽に行き来する、ファンタジーだ。
渡辺は子供のころから宮澤賢治の作品を読み聞かされて育った。賢治は「銀河鉄道の夜」など、一般的には童話作家としてのイメージが強い。一方で農業指導に奔走し、貧しい人々を支えて平等な社会を作ろうとした「活動家」としての側面はあまり知られていない。「そんな東北人の魂を描き、東北がこういう人を育てたのだと知ってほしくて書いた作品です」
猫は実は「賢治が大嫌いだったらしい」(渡辺)動物。あえて天使にだぶらせたところが、ひと癖ある渡辺らしい手法。そのメーンとなる「天使猫」に大沢を起用したのは、渡辺の夫で、今回も共演する土屋良太の推薦だった。「人間でない難しい役ですが、大沢さんは中性的で日本舞踊もできて身のこなしがしなやか」と絶賛する。
大沢も賢治のことは「小学校で伝記を読んだ程度」とよく知らなかったが、改めてその生涯に感銘を受けたという。40歳を目前にして、俳優人生の転機となりそうな舞台でもある。
「若い頃からいろんなチャンスを与えられてきたけれど、年を重ねれば確実性が求められる。えりさんとの現場は演劇を本当に作っている実感がある。大変な作業だけれど、新しいジャンルの仕事に飛び込もうと考えた」と意気込む。「猫役」は「すごく大変。深いところから沸き上がる気持ちがないと成立しないせりふが多い」と奮闘中だ。
山形県出身の渡辺には、いまだ被災地の復興が進まない現状がもどかしい。今回は福島第1原子力発電所の事故の被害が残る、福島県南相馬市や、大きな津波の被害を受けた宮城県石巻市にも行く。
被災地での公演にこだわるのは、震災後にボランティアで訪れた仮設住宅で「とにかく演劇を見たい」と強く望まれたため。「支援物資は足りないし誰にどう分けるかで大問題になる。でも演劇なら分けなくていい。つらい状況の中で少しでも癒やされて、明日からまた頑張ろうという勇気を持っていただければ」
大沢は震災後に東北を公演で訪れた。「『3月11日以来で初めて笑った』という方がいた。演劇で人の心を動かす、支えることを誇りに思った瞬間でした。今回もぜひ楽しんでほしい」
「震災を忘れない」「演劇の力を信じたい」-。そんな思いがこもった舞台となりそうだ。(文:藤沢志穂子/撮影:宮崎裕士/SANKEI EXPRESS)
10月23~28日 東京・シアタートラム。問い合わせは世田谷パブリックシアターチケットセンター(電)03・5432・1515。10月19日、盛岡劇場メインホール(岩手県盛岡市)、11月27日、南相馬市民文化会館(福島県)など地方公演あり。