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年代も人種も関係なく伝わるものはある 舞台「炎 アンサンディ」 麻実れい、岡本健一
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緊迫した情勢が続く中東、1970年代半ばに始まったレバノン内戦に題材を得た「炎 アンサンディ」が9月28日からシアタートラムで上演される。麻実(あさみ)れいが、衝撃的な過去を持つ主人公の女性を10~60代まで1人で演じ、相手役となる岡本健一(45)は6役を演じ分ける。終わりの見えない民族間の争いが続き、人間的な最低限の生活が保証されない状況のもとで愛や憎しみが交錯。果たして救いはあるのか。麻実と岡本は「読んで衝撃を受け、やるべき作品だと思った」と話す。
「中東では人間らしい生活ができない地域がある。日本は平和だけれど何も感じないわけにはいかない。私たち俳優はメッセンジャー。そう遠くない国で起きている事実を伝え、忘れかけていた『家族愛』や『自由』を感じてもらえたら」と麻実。岡本は「中東の話を東京で上演できるのは、一つの平和活動みたいなもの」と意気込む。
麻実が演じる中東系の女性ナワルは、双子の娘ジャンヌ(栗田桃子)と息子シモン(小柳友)に、謎めいた遺言と2通の手紙を残して自ら命を絶つ。手紙は姉弟が存在すら知らなかった兄と、死んだとされていた父に宛てたものだった。姉弟は母の祖国を初めて訪ね、その数奇な人生と家族の宿命に対峙(たいじ)する-。
原作はレバノン出身の劇作家ワジディ・ムワワド。子供のころにベイルート内戦を経験し、フランスを経由してカナダに移住した人生が投影されている。2010年にはカナダで映画化され、11年の米アカデミー賞外国語映画賞にもノミネートされた。日本では「灼熱(しゃくねつ)の魂」という邦題で公開され、DVDが発売されている。
「炎 アンサンディ」は藤井慎太郎訳を、文学座の若手演出家、上村聡史が演出。現在と過去を行き来しながら、複数の人間模様が詩的に展開されていく。
14歳のナワルから演じる麻実は「こうした状況下の少女は精神的に大人のはずなので、そう無理しないで演じられている」という。長男の妻がレバノン人で、3年前の結婚式で現地を訪れた経験を持つ。「空港にはライフルを持った軍人がいるなど緊迫している状況にあるけれど、とても美しい国だった。宴席には食べ切れないほどごちそうが並び、家族愛、兄弟愛の強さを感じた」と話す。
岡本は、最初は若き日のナワルの恋人役として登場し、計6役を演じ分ける。「それぞれのシチュエーションで集中しているので、混乱することはない」と笑う。「中東の状況を、日本の自分の生活に置き換えると恐ろしい。常に死が身近にあり、仲間同士の争いが起き、家族が巻き添えを食って死ぬということが普通に起きている」
原作者ムワワドと同年代でもある岡本。「彼がこの作品を書いた過程を聞いて、失礼のないようにやらなければと感じた」と身を引き締める。「言葉が分からなくても伝わるものはあり、涙が流れることもある。同じことはこの作品でも言える。日本人が中東の話をやる意味はあり、年代も人種も関係なく何かを伝えることはできるはず」と、舞台に思いをはせる。
連日のように報道される中東紛争、パレスチナの一画であるガザ地区では一般市民に対する無差別攻撃が展開され、多くの子供たちも犠牲になっている。その痛ましさを「対岸の火事」と捉えないでほしい-との思いは2人に共通する。
麻実と岡本の共演は、04年の蜷川幸雄演出「タイタス・アンドロニカス」以来。「アイドルの強さと輝きがある『頑張り屋さん』という印象だった。いつかまた一緒にやりたいと思っていた」と麻実。岡本も「麻実さんと一緒ならと、出演を即断即決した」と笑うほど2人の息はぴったり。ともに「いろんな世代の人たちに劇場に来てもらい、何かを感じてほしい」と話している。(文:藤沢志穂子/撮影:宮崎瑞穂/SANKEI EXPRESS)
9月28日~10月15日 シアタートラム(東京都世田谷区太子堂4の1の1 キャロットタワー)。問い合わせは世田谷パブリックシアターチケットセンター(電)03・5432・1515。10月18日に兵庫県立芸術文化センターで公演あり。