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ぶつかってもめて… ダンスと演技「いいとこどり」 舞台「赤い靴」 片桐はいりさんインタビュー

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ぶつかってもめて… ダンスと演技「いいとこどり」 舞台「赤い靴」 片桐はいりさんインタビュー

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ダンス公演「赤い靴」の稽古をする片桐はいりさん(中央)=2014年8月26日午後、東京都渋谷区の青山劇場(宮崎瑞穂撮影)  「はい、一回“マトリックス”を入れて」。演出家、小野寺修二(47)の声に反応し、女優、片桐はいり(51)が背中をゆっくりのけぞらせた。映画「マトリックス」(1999年)の弾よけシーンを彷彿する動きだ。

 片桐は今、9月12日から青山円形劇場(東京都渋谷区)などで始まるダンスの祭典「Dance New Air(ダンス・ニュー・エアー)」のオープニング作「赤い靴」(小野寺演出)の稽古に没頭している。

 やってみたら面白くて

 長年、芝居という“せりふの世界”で生きてきた片桐が、マイム(無言劇)をベースに演劇、ダンスなどの境界を超えた表現を模索するユニット「カンパニーデラシネラ」主宰の小野寺に誘われ、身体表現という“動きの世界”に足を踏み入れたのは2010年の「異邦人」から。小野寺との仕事は4年で5作と濃密だ。

 「小野寺さんは私を『語り部的な形で』と誘ったのに、そこ(床)に転がってください、と始まって。最初はええっ、全然聞いてないよ、と思いました。でもやってみたら、これが面白くて。体を動かすと人間の根本的な部分が楽しいと感じるというか…。30年間、舞台をやってて、次の日に早く出たいと思ったのは初めてでした」

 とはいえ、ダンサーと俳優では表現の“文法”がまるで違う。「ぶつかってもめましたよ。マイムはこういうものなんです、といわれても分からないんです。今日も、私のインプロ(即興)の演技に、『早い』とか『遅い』とか言われて、全否定されたような気持ちになったところです」

 だが一方で、動きで雄弁に物語る、身体表現の新たな可能性への気づきと喜びは、大きい。「動きのものと、演技のものとを付き合わせて新しい表現ができないか。積み重ねてきたものを今回は明確にしてみたい」と意欲的だ。

 食事の誘い断り没頭

 今回、小野寺が「悲惨な童話を題材にしたい」とデンマークの作家アンデルセンの童話「赤い靴」を選択。その世界観を下敷きに、小野寺を中心に片桐らが表現のイメージや動きの案を出し合い、6月から創作を始め、7月には城崎(兵庫県)で2週間の合宿もした。「台本から作るので、合宿中は食事に誘われても『全く時間がないです』とお断りするくらい」集中して作り込みを重ねてきた。

 童話中の女の子は赤い靴に魅せられ、我を忘れる。「赤い靴って、身の丈に合わない夢を見ることの象徴だと思う」と片桐はいう。「私は昔からバレエやダンスを見るのが大好きでした。でも、どう頑張っても(踊り手には)なれないと幼稚園の頃には悟り、ダンスなんて関係ないですから、と演技の道で生きてきました。でも、今(ダンスと名のつく舞台に)関われて…。夢を忘れてしまうのが幸せなのか、追い続けるのが幸せなのか。そんなことを考えています」

 まさに今、片桐の目の前を、赤い靴がふわりとよぎっているのかもしれない。ただし、それはかなわぬ夢ではなく。「いいとこどりの面白いものができたら、ほかの俳優やダンサー、ミュージシャンも巻き込んでやってみたいですね」。小野寺たちと4年がかりで耕してきた畑に、今回片桐はどんな双葉を芽吹かせるのか。楽しみに待ちたい。(文:津川綾子/撮影:宮崎瑞穂/SANKEI EXPRESS

 ■かたぎり・はいり 1963年、東京都出身。劇団ブリキの自発団の中心メンバーとして活躍。94年に退団後は舞台、映画、ドラマで独特の存在感を発揮している。舞台に「ベンチャーズの夜」「マシーン日記」「遭難、」、映画に「かもめ食堂」など。朝の連続テレビ小説「あまちゃん」のあんべちゃん役でもおなじみ。映画「小野寺の弟・小野寺の姉」(西田征史監督)が10月25日から公開。

 【ガイド】

 2014年9月12~15日 青山円形劇場(東京) 劇場(電)03・3797・5678。※「Dance New Air」は10月5日まで。

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