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みんなで作るうちに愛される形に 舞台「ビルのゲーツ」 ヨーロッパ企画
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個性豊かなヨーロッパ企画の役者たちと、主宰で脚本・演出の上田誠(左上)。上田は大学で工学を専攻した理系の劇作家だ=2014年8月9日(津川綾子撮影) 京都が拠点の劇団「ヨーロッパ企画」が新作「ビルのゲーツ」を8月29日から本多劇場(東京)で上演する。世界有数の起業家の名に「の」を挟んだような脱力系のタイトルとは裏腹に、緻密でトリッキーな劇構造。個性さまざまな劇団員らが阿吽(あうん)の呼吸で、他にはないユニークなコメディー劇を繰り広げる。
ヨーロッパ企画は1998年、同志社大学の演劇サークルで出会った上田誠(34)、諏訪雅(37)、永野宗典(36)の3人で結成。今はスタッフ含め20人が所属する。代表である上田の脚本・演出による喜劇は、大きくヘンテコな構造物から生じる難儀なシチュエーションで人々が右往左往する-というTVゲーム的なタッチ。昨年上演の「建てましにつぐ建てましポルカ」では舞台上を迷路のようなお城に。都会のハイテクビルを舞台にした「ビルのゲーツ」はSF映画に出てくるような巨大ゲートをしつらえている。
「上演会場が大きくなるにつれ、より大きなバカバカしさを追求するようになりました。その大仕掛けに不備があって生まれるどうしようもない状況は、いかんともしがたい『痛みの演劇』として描くこともできれば、一歩引いて状況を見つめ笑うこともできる。僕は後者。ゲートを開け、ビルをひたすら登るというシチュエーションは地獄の行軍のようにも描けますけれど、僕はお笑いが好きなので」と上田。劇作を語る言葉には、かの「ホーソン工場」実験で工員の作業を見つめた経営学者たちにも似た、行動観察者的な視座を感じる。
今回は、ある企業のCEO(最高経営責任者)との面会を目指す男たちが、首にぶら下げたICカードを認証装置にかざし、各階の巨大ゲートを開けては上へ、上へとのぼっていくストーリー。開けど、上れど、幾重も重なるマトリョーシカのように扉は続く。20階…30階と高層になるにつれ、ICカードの認証方法は複雑化。ゲートの手前は、知力や体力を問うサバイバルゲームの様相に。CEOに会うためか、本能のままただ上りたいだけなのか。それも曖昧に。開けては上るの反復は、「人類」対「ビル」の壮大なドラマかと錯覚しそうになる。
ところが、こうしたトリッキーな劇構造ながらも、マニアックで難解な作風に陥らず、誰にでもわかりやすい「笑い」にまで昇華されているのがヨーロッパ企画の大きな魅力。その秘訣(ひけつ)は、上田が描いたストーリーをもとに、立ち稽古で劇団員がせりふやアイデアを出し合い、積み上げていくエチュード(即興劇)形式の劇作にありそう。
「僕固有のテイストを突き詰めすぎるととっつきにくい物語になるかもしれないけれど、稽古場でみんなで作るうちに、みなさんに愛される形に着地するのが集団作業の面白さ」と上田はいう。また稽古場での共同作業や、稽古後の食事会を通じて知った役者の人間性や関係性は、そのまま役柄に反映されることが多いという。「そうするとドキュメンタリーと劇が混ざったようなものができてくるんです」
やはり上田は優れた人間観察者であるようだ。(津川綾子、写真も/SANKEI EXPRESS)
【ガイド】
8月17日まで 京都府立文化芸術会館(京都)、サウンドクリエーター(電)06・6357・4400。8月29日~9月7日 本多劇場(東京)、サンライズプロモーション東京(電)0570・00・3337。9月10~16日 ABCホール(大阪)、サウンドクリエーター(電)06・6357・4400。ほか広島、福岡、名古屋、横浜公演あり。ヨーロッパ企画の劇団員のほか、加藤啓、金丸慎太郎、岡嶋秀昭、吉川莉早が出演。