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露の石油業界 欧米制裁で深刻打撃

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露の石油業界 欧米制裁で深刻打撃

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日本の主な対ロシア制裁=2014年3月18日、4月29日、8月5日  【国際情勢分析】

 欧米が7月末に導入を決めた経済制裁が、ロシアの石油業界を苦しめている。西シベリアの既存油田が枯渇するなか、制裁対象となった北極圏やシェールオイル開発が、生産量維持で死活的に重要なためだ。ウラジーミル・プーチン大統領(62)は石油生産量の維持を国家目標に掲げているが、制裁が長期化すればその達成が困難になる。

 開発技術供与を禁止

 7月29日、欧州連合(EU)と米国は相次ぎ、ロシアの石油分野を標的にした制裁導入を決めた。EUは、圏内企業によるロシアへの深海や北極海での油田開発、シェールオイル開発のための設備、技術供与を禁止した。米国も、石油掘削や油田開発に用いる機器、技術の輸出を禁じた。米国はそれに先立ち、ロシア石油生産最大手の国営ロスネフチなどに対し、米国での資金調達を制限する制裁を導入していた。

 今回の制裁の最大の特徴は、EUがこれまで回避してきた対露経済制裁に踏み込み、それがエネルギー分野を含む内容だったことだ。EUが天然ガス輸入の3割をロシアに依存するなか、5月にイタリアで行われたG7(先進7カ国)エネルギー相会合では、G7はエネルギー分野での対露制裁を見送った。ロシアを代替するエネルギー供給国は事実上ないとの認識を踏まえた結果だった。

 EUに6割依存

 しかし7月の制裁は、そのエネルギー分野に踏み込んだ。EUは、ロシアへの依存度が高いガス分野を避け、かつ契約済みの油田開発計画の凍結などには踏み込まないことで、制裁の導入を決めた。7月18日にウクライナ東部で発生したマレーシア機撃墜事件で、オランダや英国などから多くの犠牲者が出たことなどが、EUの決定を後押しした。

 ロシアの国家歳入の約50%は石油・天然ガスで占められ、なかでも石油の比率は高いとされる。ロシアは主力の西シベリアにおける油田の生産量が減少しており、今回制裁対象となった新規開発分野は、ロシアの石油生産量維持にとり極めて重要とされる。プーチン大統領は2012年の2度目の大統領就任に先立ち、任期中の目標として、年間5億トンの水準で石油生産を最低でも10年持続させるとの方針を打ち出していた。

 ロシアは北極海やシェールオイルの石油開発では、欧米の技術に大きく依存してきた。米紙インターナショナル・ニューヨーク・タイムスによると、ロシアは北極海、深海での原油開発においては、掘削関連技術の最大6割をEUに依存しているという。

 中国では代替できず

 ただ今回の決定は、欧米の石油大手にとっても打撃となる。米エクソンモービルは、制裁対象のロスネフチと共同で、シェールオイル、北極海開発を進めていたほか、英蘭系ロイヤル・ダッチ・シェル、英BP、仏トタル、ノルウェーのスタトイルなど、各国企業が軒並みロスネフチや、同様に制裁対象となったノバテクなどと共同で、北極海開発やシェールオイル開発計画を進めていた。英BPなどは、ロスネフチの株式の約2割を保有し、それが自社の利益の2割を生んでいたといい、ロシア事業の見直しは打撃となる。

 そのため今回の制裁は、ロシア側でも深刻な影響を懸念する声が出ている。ロシア国営通信は、既存の油田・ガス田の生産維持や新規開発に向けては「海外の技術や経験が不可欠」で、「外国企業との協力が困難になれば、多くの開発計画の実現が難しくなり、事実上すべてのロシア企業に影響を及ぼす」との専門家の指摘を紹介した。

 ロシアでは、掘削用機器などを「すでに中国から入手しており、制裁の影響は限定的」との声も出ているが、中国は北極海開発などでの実績は事実上なく、中国が欧米を代替する可能性は極めて低い。(国際アナリスト EX/SANKEI EXPRESS

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