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「火遊び」で早まったプーチン政権の最期

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「火遊び」で早まったプーチン政権の最期

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マレーシア機撃墜の状況=2014年7月3日と7月18日、ウクライナ東部。※日時は現地時間。ウクライナ国防当局調査機関の資料を基に作成  【国際情勢分析】

 「彼はクリミアを取り戻した指導者として歴史の教科書に載りたかったのさ」。ロシアのウラジーミル・プーチン大統領(61)が3月、ウクライナ南部クリミア半島の併合に踏み切った理由について、信頼できる複数の識者たちは、実はこんなシンプルな見方で共通している。クリミアから始めた“火遊び”がマレーシア機撃墜の大惨事に至ることは、プーチン氏自身にも想定外だっただろう。

 ウクライナで親欧米派が実権を握った2月の政変以降、ロシアはウクライナ東部と南部で親ロシア派住民の反乱をたきつけた。露特務機関が暗躍したのはもとより、「クーデターで発足したファシスト政権により、東部・南部の住民には危険が迫っている」といったプロパガンダ(政治宣伝)が大きな役割を果たした。

 クリミアはロシア系住民が6割を占め、ロシアでも「ロシア固有の領土だ」と考えている人が多い。地理的にも「獲得しやすい断片」であり、ウクライナの親欧米派を“懲罰”するには都合のよい素材だった。

 これに対し、東部の状況は格段に複雑だ。プーチン政権の狙いは併合ではなく、東部の混乱をテコにして、(1)ウクライナが北大西洋条約機構(NATO)に加盟しないとの確約を得る(2)ウクライナに連邦制を導入させ、親露的な住民の多い東部に影響力を保持する-ということだった。

 しかし、5月のウクライナ大統領選を経てペトロ・ポロシェンコ大統領(48)が政権を発足させると、ロシアは拳の振り落とし所を失い、ジレンマに立たされることになった。

 プーチン政権はまず、親露派と静かに距離を置こうとした。ポロシェンコ政権の正当性に疑問を呈するのは難しくなり、米欧が対露制裁を強めれば、自国経済への影響が避けられない。親露派武装勢力には地元住民だけでなく、ロシア民族主義者や軍隊上がりの傭兵(ようへい)、ごろつきらさまざまな者が加わり、もはやクレムリンの思惑通りには動かなくなっていた事情もあった。

 政権は特に、「親露派の指導部に浸透した露民族主義者が、ロシア人の国家を建設するとの論理で行動し始めた」(在モスクワ消息筋)という点を警戒した。民族主義が自国内に波及すれば、多民族国家ロシアの存立基盤が揺らぎかねないためだ。

 プーチン政権は他方、米欧の要求に屈して親露派武装勢力と「決別」することもできなかった。露主要メディアは親露派を「善玉」として報じ続けており、それを見捨てることはクリミア併合で掲げた「同胞の保護」という大義に反する「弱腰」と映るからだ。ウクライナに圧力をかける“道具”を失うわけにはいかないとの考えもあっただろう。

 こうして“火遊び”が手に負えなくなりつつあった中で起きたのが、マレーシア機の撃墜事件だ。これに先だってウクライナの軍用機が相次いで撃墜されていたため、親露派武装勢力の手にしていた武器はかなり高度化していたと考えることができる。米欧は、親露派がロシアから入手した地対空ミサイルでマレーシア機を撃墜したとの見方を強めており、プーチン政権は追加制裁を免れない方向だ。

 制裁が政策変更を促す手段として持つ効果については、専門家の間でも見解が割れている。プーチン氏の支持率は8割超で高止まりしており、米欧の制裁を受けて逆に態度を硬化させることも大いに考えられる。だが、撃墜事件前に発動された制裁ですらロシア経済にはボディーブローのように効き始めており、ソ連型の孤立路線は決して長続きしないだろう。

 ロシアがクリミア併合を決めた3月、筆者はこれがプーチン政権の「終わりの始まり」になる可能性を指摘した。当時、政権の揺らぎは「3~4年で訪れる」との予測を念頭に置いていたが、マレーシア機の事件はそれを早めるかもしれない。経済か民族の問題、あるいはその両方が激動の幕を開くことになるのではないか。(モスクワ支局 遠藤良介(えんどう・りょうすけ)/SANKEI EXPRESS

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