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冷戦後最大 米欧、対露制裁を強化 エネルギー・防衛・金融標的 

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冷戦後最大 米欧、対露制裁を強化 エネルギー・防衛・金融標的 

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マレーシア機撃墜の状況=2014年7月3日と7月18日、ウクライナ東部。※日時は現地時間。ウクライナ国防当局調査機関の資料を基に作成  バラク・オバマ米大統領(52)は7月29日、ロシアがマレーシア航空機撃墜後もウクライナ東部の親ロシア派への支援を続けているとして、ロシアに対する経済制裁を強化すると発表した。欧州連合(EU)も29日、本格的な経済制裁発動で合意。30日には個人や企業・団体を対象にした在欧資産凍結の追加制裁を発動する。米欧は連携してプーチン政権への圧力を強めた。

 オランダ人を中心に乗客乗員298人が犠牲になった撃墜事件で、親露派武装勢力がミサイルを撃ったとの見方を強める米欧は、基幹産業であるエネルギー、防衛、金融分野を標的に、ロシアに冷戦終結後最も重い制裁を発動。ロシアによるウクライナ南部クリミアの併合で亀裂が入った米欧とロシアの関係はさらに溝が深まった。

 米政府が今回の制裁対象としたのはVTB銀行、モスクワ銀行、ロシア農業銀行の政府系3金融機関と、国営軍需企業の統一造船。3行には米国人との一定の取引を禁じ、統一造船に対しては米国内の資産を凍結し、米国との取引を禁止する。

 石油掘削や油田開発に用いる機器、技術をロシアのエネルギー関連企業に輸出することも禁じる。

 EUの追加制裁は、プーチン政権に近い企業関係者4人を含む個人8人と3つの企業・団体が対象。ロシア政府が50%以上出資する銀行が新規に発行する債券や株式を欧州で購入することの禁止などを盛り込んだ本格的な経済制裁は、31日付で発動の見通し。

 オバマ大統領は、EUが強力な制裁で米国と歩調を合わせたことを強調し、安定化に向けた行動を取らなければ「ロシアの損失はさらに膨らむことになる」とウラジーミル・プーチン大統領(61)に警告した。

 米政府は撃墜事件前日の(7月)16日に大手銀行や石油会社などロシア基幹産業への一部制裁に着手しており、対象を拡大した。

 ≪「マレーシア機撃墜」欧州の背中押す≫

 米国、欧州が協調して本格的な対ロシア経済制裁へ踏み込んだ。マレーシア航空機撃墜の惨事が、制裁に消極的だった欧州各国首脳の背中を押した。米欧とロシアの対立は決定的となり、冷戦後の国際秩序は転機を迎えた。日本の対露政策も見直しを迫られそうだ。欧州を自らに引き寄せた米国は「極めて充実した制裁内容」と自負する。ただ欧州経済にとっても痛打となる措置は避ける抜け道もあり、ロシアの妥協を引き出せるか予断を許さない。

 包囲網着実に

 「今日の決定は不可避だった」。7月29日、ブリュッセルで欧州連合(EU)の大使級会合が制裁に合意した後、ドイツのアンゲラ・メルケル首相(60)が発表した声明は撃墜事件で一変した欧州の雰囲気を表した。

 欧州はロシアと経済関係が密接で、ドイツ企業の多数がロシアへ進出。経済制裁は避けたいのがメルケル氏の本音だった。フランスも伝統的に対露関係を重視する。ロシアに警戒心が強い旧共産圏の東欧、バルト諸国は英国と共に早くから強硬論を唱えていたが、全28加盟国による経済制裁の合意は困難とみられていた。だが、今月(7月)17日のマレーシア機の悲劇が「世界を変えた」(ハモンド英外相)。

 日本は北方領土交渉を抱え、ロシアを刺激したくない立場だが、撃墜事件に絡む追加制裁を28日に発表。ジョン・ケリー米国務長官(70)から岸田文雄外相(57)に電話で謝意が伝えられた一方、ロシア外務省は「非友好的で近視眼的な措置」と日本を非難する声明を出した。カナダでは29日、スティーブン・ハーパー首相(55)が制裁強化の方針を表明した。

 「冷戦終結後、ロシアがこれほど孤立を感じたことはなかったはずだ」。米政府高官は29日、ロシア包囲網が完成しつつあるとの認識を示した。米政府は撃墜事件後、欧州諸国がロシア基幹産業に対する制裁に踏み切るよう「懸命に働き掛けた」という。ロシアが自国領内からウクライナ側に砲撃した証拠という衛星写真も公開、欧州の対露強硬論を後押しした。

 「このような事態に陥る必要はないし、なかったはずだ。これはプーチン大統領の選んだ道だ」。オバマ大統領は29日、ホワイトハウスでこう語り、「何十年間もの発展を後退させる」覚悟があるのかとプーチン氏に問いかけた。

 「除外」を設定

 ただ、もろ刃の剣となる経済制裁を科すとなると「ロシア経済へ強い効果をもたらす一方、EU経済への影響を抑える」(ファンロンパイEU大統領)必要があった。制裁にさまざまな「除外」を設け、何とか「ルビコン川を渡る」(EU外交筋)ことができた。

 ロシアの基幹産業のエネルギー分野を制裁対象とすれば大きな効果が期待できるが、EUは域外からの天然ガス輸入の約4割(2013年)をロシアに依存する。ガス調達への悪影響は避けようと、今回の制裁の「先端技術の提供禁止」は原油生産事業向けに限った。

 フランスはロシアと以前から結んでいる強襲揚陸艦2隻の売却契約を米国などから問題視されている。フランスのイブ・ルドリアン国防相(67)と東京で29日に会談した小野寺五典(いつのり)防衛相も売却に懸念を伝えた。だが、フランスは雇用維持などのため、契約をあくまで履行したい考えだ。こうした各国の事情を反映し、今回の制裁では武器禁輸から金融取引制限まで対象を「新規」の契約に絞っている。(共同/SANKEI EXPRESS

 【オバマ米大統領声明のポイント】

・マレーシア航空機撃墜後、ロシアと親ロシア派は調査に協力せず、親露派は調査を妨害、証拠を改竄している

・ロシアは親露派に対する訓練や武器供給を続けている

・ロシアは自国領内からウクライナを砲撃し、国境周辺で部隊を増強している

・ロシアの基幹産業であるエネルギー、防衛、金融分野に対する制裁を新たに科す

・欧州連合(EU)が発表したこれまでになく重い制裁と合わせ、制裁の効果は強力だ

・既にロシアの資本逃避は加速し、ロシア経済は打撃を受けている

・これはプーチン大統領が選んだ道だ。方針を変換しなければロシアの損失はさらに膨らむ

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