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撃墜事件 ロシアとウクライナの双方に責任

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撃墜事件 ロシアとウクライナの双方に責任

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マレーシア機撃墜の状況=2014年7月17日午後5時15分ごろ、ウクライナ・ドネツク州グラボボ村。※日時は現地時間  【佐藤優の地球を斬る】

 7月17日、マレーシア航空MH17便(ボーイング777)がウクライナ(東部ドネツク州)領空から、ロシア領空に入る直前に連絡を絶ち、墜落した。

 ウクライナ政府、米国政府が発表する情報を総合的に判断すると、ドネツク州東部を実効支配する親露派武装勢力がウクライナ政府軍機と誤認して、地対空ミサイル「BUK(ブク)」でマレーシア航空機を撃墜したようだ。

 ロシアのマスメディアは、当局筋のリークを基にウクライナ政府軍がマレーシア航空機を撃墜したとの憶測情報を流しているが、いずれも信憑(しんぴょう)性がない。一方で、ウクライナのインテリジェンス機関が発表した、「親露派責任者とロシア軍幹部との通話記録」や「BUKをドネツク州からロシア領に撤退させる動画映像」などが捏造(ねつぞう)であるというロシアの反論には説得力がある。ウクライナもロシアもなりふり構わずインテリジェンス(情報)戦争を展開している。

 欺瞞と狡猾の両大統領

 ウクライナのポロシェンコ大統領は、自らを被害者のごとく装っているが、これは欺瞞(ぎまん)だ。ウクライナ政府は、ドネツク州東部に実効支配が及んでいないことを強調する。これはウクライナ政府が、自国領土の実効支配という国際法が定める国家としての要件を満たしていない破綻国家であることを自認するものだ。

 <ウクライナのポロシェンコ大統領は1日未明(日本時間同日午前)、6月30日夜に期限を迎えた親ロシア派武装勢力に対する一方的な停戦を延長しないと表明した。(中略)ポロシェンコ大統領は国家安全保障国防会議の協議後、国民向けにテレビ演説し、自らが用意した東部正常化のための和平計画に対してドネツク、ルガンスク州の親露派勢力が協力しなかったとし、「われわれは攻撃し、祖国の土地を解放する」と語った>(7月1日MSN産経ニュース)。

 ポロシェンコ大統領が戦闘再開を決定しなかったならば、今回の民間航空機撃墜事件は起きなかった。

 ロシアのプーチン大統領にも、今回の事件に関して重い責任がある。KGB(ソ連国家保安委員会)出身でインテリジェンスに通暁しているプーチンは、賢明かつ狡猾(こうかつ)なので、ロシア軍が直接、ウクライナ東部・南部の親露派武装集団に参加するようなことはしない。ただし、GRU(ロシア軍参謀本部)が、裏金やOBのネットワークを用いて、親露派武装集団を支援することを止めていない。

 GRUは、武器販売によって、予算とは別に簿外で大量の資金を有している。この資金が、親露派武装勢力に流れ、それが傭兵や武器購入の資金に充てられているのは間違いないと筆者は見ている。プーチンがGRUに「ウクライナへの介入を今後、一切止めよ」と命令すれば、状況が劇的に変化する。もちろん、GRU内の一部跳ね上がり分子は統制に服さずに親露派武装勢力を支援するであろうが、大量の資金供与はなくなるので、闇市場での武器購入が困難になる。

 漁夫の利得る過激勢力

 以前から繰り返し述べているように、ロシアが毒蛇ならば、ウクライナは毒サソリだ。日本は双方と距離を置かなくてはならない。

 焦眉の課題は、ウクライナ東部・南部における内戦状態を一刻も早く停止することである。ロシアとウクライナが、「ウクライナ国家の枠組みの中で、東部、南部の諸州に自己決定権を認める。戦車、地対空ミサイル、戦闘機、爆撃機などの重火器を当該諸州から撤去する」という条件で合意すれば、停戦は可能だ。

 現在、ウクライナ紛争のために米露が感情的に対立している。その漁夫の利を得ているのが、ISIS(イラクとシリアのイスラーム国)のような、イスラーム世界革命の実現を目指す過激な勢力であることを忘れてはならない。(作家、元外務省主任分析官 佐藤優(まさる)/SANKEI EXPRESS

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