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オバマ大統領に「警鐘」響かず

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オバマ大統領に「警鐘」響かず

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マレーシア機撃墜の状況=2014年7月3日と7月18日、ウクライナ東部。※日時は現地時間。ウクライナ国防当局調査機関の資料を基に作成  【国際情勢分析】

 ウクライナ東部でのマレーシア航空機撃墜事件はバラク・オバマ米大統領(52)の外交姿勢への「警鐘」となるのだろうか。制裁の逐次強化がロシアのウラジーミル・プーチン大統領(61)の行動パターンを変えられなかったのと同じように、残念ながらオバマ氏の思考様式や行動原理も容易には変わらないと断じざるを得ない。

 危機に関わらぬ外交

 オバマ氏はこのところ、手紙をもらった庶民と会うため米国の各地を回っている。11月の中間選挙に向け、中間層を重視する姿勢をアピールするためだ。民主党が選挙戦に使う資金集めも兼ねている。西海岸を訪問中の7月24日に訪れたロサンゼルスの食堂には、朝食をとる客に気さくに声をかけるオバマ氏を醒めた目で見つめる主婦がいた。

 「大統領にはもうちょっと外交政策にも取り組んでもらいたいね。いろいろやることがあるのは分かっているけど」

 アリソン・パウエルさん(46)は他の客と趣味のバスケットボールの話題で盛り上がるオバマ氏を見つめながら、同行記者にこうつぶやいた。特にロシアとウクライナの情勢が気がかりだという。

 乗客乗員298人全員が死亡する大惨事に至り、米メディアは「オバマ外交」に対する批判のトーンを強めている。

 オバマ氏が(7月)21日、撃墜事件の調査に非協力的なプーチン氏を「ウクライナの主権を侵害し、親露派の支援を続ければさらに孤立し、代償は高くなり続ける」と批判した後に西海岸に出かけたことについて、ワシントン・ポスト紙は7月25日付の社説で次のように指摘した。

 「大統領は寄付集めの政治活動を脇に置いてまで危機に関わりを持たない-。これがプーチン氏へのメッセージとなった」

 「米欧分断」印象づける

 オバマ氏がプーチン政権に対して宥和(ゆうわ)的であるわけではない。今年3月にウクライナ南部クリミア半島を併合したロシアに対し、オバマ政権は制裁措置を次々と強化してきた。ロシア経済に打撃を与えるため、(7月)16日には国営石油企業ロスネフチ、国営天然ガス企業ガスプロム傘下の銀行ガスプロムバンクなどエネルギー、金融の大手企業4社を対象とする最大規模の制裁に踏み切った。基幹産業全体を対象とする「部門制裁」も視野に入れ、及び腰の欧州の尻を叩く。

 今年5月の外交演説で自らが敷いた路線を忠実になぞっているのは明らかだ。オバマ氏は軍事よりも外交を重視することを鮮明にしたこの演説で「制裁と孤立」を外交政策の基軸に据える考えを示していた。制裁を加えることにより、ロシアを孤立させることに主眼を置いてきた。ロシアに一定の圧力がかかったことは間違いない。

 ただ、同じ外交演説で掲げた「同盟国などとの集団的行動」に成功していないのは明らかだ。制裁の拡大に当たり、米国はまず自ら率先してメニューを提示し、欧州諸国がそれに呼応するケースが多かった。これではプーチン氏が意図する「米欧分断」を印象づける結果しか生み出さない。

 新秩序見えず

 「制裁は素早く効果的でなければならない。段階的拡大の理論は捨て去り、本当の痛みを与えることだ」

 ブッシュ前政権で国務次官や国連大使を務めたジョン・ボルトン氏(65)は米紙ウォールストリート・ジャーナルへの寄稿でこう指摘した。オバマ政権はロシアに「痛み」を与えたつもりになって、国家としての威信が経済面での損得勘定に勝るという肝心なことを忘れている。

 米国はウクライナに限らず「停戦外交」にご執心だが、これは過去の不法行為を不問に付すことにほかならない。

 クリミア半島がロシアに併合されたままでも停戦状態になれば「歓迎」、中国がパラセル(中国名・西沙)諸島の周辺海域から石油掘削施設を撤収しても「歓迎」。領土的野心を持つ国々にとってはこれほどありがたい話はない。

 オバマ氏は(7月)22日、シアトルで演説し、ウクライナ、イラク、イスラエルなどの情勢を挙げて「人々が懸念しているのは、世界の古い秩序は続いていないが、まだ新しい秩序に至っていないという感覚だ」と語った。かつて「欧州の天地は複雑怪奇なる新情勢を生じた」と述べて総辞職した日本の宰相がいたが、オバマ氏も同じような感覚で国際情勢を見ているのかもしれない。(ワシントン支局 加納宏幸(かのう・ひろゆき)/SANKEI EXPRESS

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