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対露制裁と日露関係

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対露制裁と日露関係

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【マレーシア機撃墜】ウクライナ・ドネツク州グラボボ村=2014年7月17日午後5時15分ごろ  【佐藤優の地球を斬る】

 7月28日の記者会見で、菅義偉(すが・よしひで)官房長官(65)は、ウクライナ危機をめぐり、ロシアに対する追加制裁措置を発表した。マレーシア航空機撃墜にロシア軍が関与しているという疑惑が欧米で強まり、米国、EU(欧州連合)が対露制裁を強化するのに連動する動きだ。特に今回、日本はEUに同調して、欧州復興開発銀行にロシアの新規事業への融資を止めることになる。ロシアにとっては、「実害」がある制裁だ。

 「日本経済にもダメージ」

 ロシア政府はこれに激しく反発している。7月31日、露国営ラジオ「ロシアの声」は、「日本版対露制裁の矛盾」と題する論評を報じた。

 <日本が対露追加制裁を決定した。この決定は、ウクライナ問題の本当の原因に関する誤ったイメージに基づくものだ。制裁によって、露日2国間関係は深刻な打撃を受ける。関係後退は免れまい。ロシア外務省は以上のような立場を表明した。

 制裁で傷つくのは露日関係だけではない。日本自身がダメージを蒙るのだ。日本専門家アンドレイ・フェシュン氏はそう語る。

 「日本は先日、クリミア製品の輸入を禁止したが、米国が日本に求めたのは、このような制裁ではなかった。米国が日本に求めたのは、石油・ガス部門をはじめとする、対露関係の停止、少なくとも大幅な縮小だ。日本がこれまでそうした措置を一切講じなかったことは、理にかなっている。そんなことをすれば、経済的観点からみて、日本自身が大損を蒙るからだ。ロシアとのエネルギー協力が停止あるいは縮小されれば、日本はカタールや東南アジアからの液化天然ガス輸入を増大せざるを得なくなる。そして、米国からのシェールガスの輸入を。そのとき得をするのは米国だけだ。北米の沿岸で液化されたガスを太平洋経由で輸入するとすれば、日本は現在ロシアからのガスに払っている額の2倍を払わなければならなくなる。これこそ米国が執拗(しつよう)に日本に求めるものの価格であり、日本が米国外交への忠誠のために自国の経済的利益に与えなければならない損失の価格なのである」>(7月31日「ロシアの声」日本語版ウエブサイト)

 「対露制裁は日本経済に打撃を与えるぞ」というメッセージは、ロシアが日本とのエネルギー協力が停止することを恐れているという証左だ。

 北方領土交渉停滞の懸念

 さらにこの論評は、日露2国間関係に今回の制裁の影響が及ぶという見方を示す。

 <制裁によって日本は、建設的な対話に前向きな、ロシアという、地域における隣人を失うことになるかもしれない。日本が中国と領土問題で緊張関係にあるのは周知の事情だ。韓国との関係強化も、歴史問題によって阻まれている。それにとどまらず、制裁は返す刀で日本の首相自身を傷つけるかもしれない、とアンドレイ・フェシュン氏。

 (中略)ロシアとの関係改善と平和条約交渉の再開は、安倍晋三首相(59)の外交成果の中で最重要なもののひとつだった。安倍首相の外交によって、日本経済のロシアのエネルギーへのアクセスは拡大した。日本政府はあたかも、地域における外交環境を自分たちに有利に改善するために、モスクワとの関係を活用しようとしていたところだった。こうした努力が水泡に帰するかもしれない>(同上)

 「ロシアの声」は、国営放送なので、大統領府、政府と矛盾する内容の論評はしない。今回の論評は、大統領府の意向を率直に反映していると筆者は見ている。今後、それほど遠くない時期にロシアから、「成果が望まれないならば、今秋のウラジーミル・プーチン大統領(61)訪日は、延期した方がいい」というシグナルが送られてくると思う。北方領土交渉が著しく停滞する危険性がある。(作家、元外務省主任分析官 佐藤優(まさる)/SANKEI EXPRESS

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