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対露制裁に「反撃」 備え説く欧米メディア

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対露制裁に「反撃」 備え説く欧米メディア

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ロシア・首都モスクワ  【国際情勢分析】

 ウクライナ情勢をめぐり、欧米が相次いでロシアへの制裁を発動している。なかでも欧州連合(EU)は8月1日、ロシアに対する本格的な経済制裁を発動した。対象は露銀行最大手の国営ズベルバンクや政府系天然ガス最大手ガスプロム系のガスプロムバンクなど5行。これまでの制裁が、影響力のあるロシア人やウクライナ人に対する渡航禁止令や資産凍結のレベルだったことを考えれば、かなり踏み込んだ内容になった。

 脅かされる大統領の座

 その背景を詳しく報じているのが1日に掲載された英紙フィナンシャル・タイムズ(FT)の記事だ。記事は「ズベルバンクをEUが今回制裁対象にしたというのは、7月17日のマレーシア機撃墜事件以降、EUがウクライナ東部での親ロシア派武装勢力をめぐって続いた優柔不断さを転換し、モスクワに対する強硬姿勢を取るというサインだ」と指摘する。ズベルバンクはロシアの銀行システムの50%の資産を保有しており、発行する債券や株式の欧州での売買が禁止されるなど金融取引を大幅に制限した今回の制裁は、米国の対露制裁よりも効果を持つとみられる。

 欧米メディアは、こうした制裁措置にロシアのウラジーミル・プーチン大統領(61)が黙っていないだろうという見方で一致する。米紙ワシントン・ポスト(WP)の7月30日付社説(ウェブ版)は「西側は傷ついたプーチンがさらに攻撃的になることへの備えを」との見出しを掲げ、プーチン大統領の反撃への警戒を呼びかけている。

 WP紙は「プーチン氏は二重の失敗に直面している」として、欧米によるロシアの銀行や石油会社への制裁と、彼の代理である武装勢力を後退させている軍事的敗北を挙げ、この失敗は「プーチン氏の大統領職を脅かしかねない状況だ」と分析する。経済制裁による経済の失速とロシアの孤立を懸念する大物実業家たち。そして、親露派への支援を続けるよう求めるナショナリストたち。両者の間に立つプーチン氏が厳しい立場に置かれていることは明白だ。

 ありうる軍投入

 米紙ウォールストリート・ジャーナル(WSJ)の7月31日付社説は、親露派武装勢力が劣勢にあることから、プーチン氏の選択肢は「親露派を見捨てるか、支援を増やし、おそらく本物のロシア軍を投入するかだ」とする。その上で「これまでの実績が示唆するのは、プーチンは負けることが嫌いだということだ」として、後者の可能性を示唆している。WP紙も「プーチン氏は引き下がるよりエスカレートさせるだろう」とし、「ウクライナと西側はもっと強力であからさまなロシア軍の介入に備えるべきだ」と断言する。

 ロシアの反撃に備える上で、重要なのは北大西洋条約機構(NATO)だ。しかし、7月31日配信のロイター通信は「NATOはロシアによる加盟国への攻撃への準備ができていない」と問題提起する英国議員らの発言を報じた。記事は、英国議会の国防委員長の発言として、「ロシアの不安定さ、プーチン氏の世界観、そしてウクライナ情勢をめぐって西側が能動的に対応しなかったことが意味することは、私たちはいま、ロシアがこうした戦術をどこでも繰り返す可能性に、それが少ないとしても、緊急に対応しなければいけないということだ」との認識を伝える。

 また、特にロシア国境に位置し、旧ソ連に支配されていた加盟国のバルト三国(エストニア、リトアニア、ラトビア)が脆弱な状態にあるとして、3カ国の防衛体制を強化するべきだと訴えている。

 オバマ氏は「新冷戦」否定

 こうした指摘を受けてか、英国のデービッド・キャメロン首相(47)は(8月)2日、9月4、5日に英西部ウェールズで開催されるNATO首脳会議を前に、ロシアとの関係見直しを会議の議題の一つにすることを提案した。また、東欧諸国でNATO軍のプレゼンスを維持するための方策について合意を目指すべきだと呼びかけた。

 「新たな冷戦ではない」。米国のバラク・オバマ大統領(53)は7月末に新たな対露制裁を発表した際、「これは冷戦か」とする記者の質問にこう答えた。オバマ氏の発言はプーチン氏に過剰反応をいさめるものだったかもしれないが、プーチン氏がこの発言を額面通り受け取ることはほぼないだろう。プーチン氏の次の動きに要注意だ。(国際アナリスト EX/SANKEI EXPRESS

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