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「コレクター」が存在感を増す潮流 「現代美術のハードコアはじつは世界の宝である展」

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「コレクター」が存在感を増す潮流 「現代美術のハードコアはじつは世界の宝である展」

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マーク・クイン《ミニチュアのヴィーナス》2008年_ヤゲオ財団蔵(提供写真)。(C)Marc_Quinn  【アートクルーズ】

 「現代美術のハードコア(核心)はじつは世界の宝である」。こんな刺激的な題名がついた現代美術のコレクション展が、東京国立近代美術館(東京都千代田区)で開かれ、話題を呼んでいる。展示作品は、台湾のコレクターが好みで集め、ともに暮らしている、数億~数十億円もする“お宝”ばかり。最近、世界的に発言権を増しているコレクターたちの、美術界に与えつつある影響まで考えさせる内容になっている。

 さまざまな斬新テーマ

 台湾のヤゲオ財団が所有する美術品は約400点。そのうち74点が出品されているが、ほとんどが初来日だ。

 作家は、アンディ・ウォーホル、ロイ・リキテンスタイン、フランシス・ベーコン、ゲルハルト・リヒター、サイ・トゥオンブリー、杉本博司、ザオ・ウーキーらで、現代美術好きなら知らない人はいない著名作家が並ぶ。どれもこれもオークションでは「億円」を下らない。

 例えば、スーパーリアリズムで知られる彫刻家、ロン・ミュエクの「若者」。黒人の若い男性を生きているように、リアルに表現する。しかし、めくり上げた白いシャツの下には、やりで刺されたような傷。傷の位置や形は、キリストの磔刑(たっけい)画を思わせる。

 キリストと言えば、杉本博司の「最後の晩餐(ばんさん)」は、レオナルド・ダビンチの作品に題材を求めた。蝋(ろう)人形を使って、目の前で実際の晩餐が繰り広げられているように写し出すが、ダビンチが活躍した15~16世紀の重厚な雰囲気まで醸し出している。

 2012年のロンドン・パラリンピック開会式で、手足に障害をもつ女性の巨大なヌードの彫刻を登場させ話題になったマーク・クイン。「ミニチュアのヴィーナス」は、女性にアクロバチックなヨガのポーズを取らせることで、人を超え「神」や「魔性」の美にまで迫ろうとしているかのようだ。

 「自分の嗜好」が購入の基準

 東京国立近代美術館によれば、最近の現代美術の傾向として、手法の奇抜さより、従来の技法を地道に極めながら、テーマによる斬新さを表現する作品が多く、今回の展覧会にも傾向が表れているという。しかし、ヤゲオ財団コレクションの収集に顕著な傾向があるわけではなく、美術館は入場者が見やすいように、ミューズ、ポップ・アート、崇高、威厳など10のテーマでくくり、西洋と東洋の作品を組み合わせて展示している。

 もう一つ特徴的なのは、こうした逸品が財団のピエール・チェン理事長の住まいに“同居”していることだ。チェン理事長は美術館のインタビューに、「絵を掛け替えることで、(部屋の)雰囲気を変えられる」と、普通のインテリアを扱うように答えている。

 さらに、作品購入の判断基準については「自分が好きだと思える作品を買っているだけ」と「嗜好」を第一に挙げ、収集するという行為は「濃密な発見に満たされた旅」だと表現した。

 作家の育成事業も

 チェン理事長は今や世界的にも十指に入る民間人コレクターだが、「最近、アジアやラテン・アメリカの富裕層によるアート購入が盛んになり、コレクターたちの発言権も高まっている」と指摘するのは、東京国立近代美術館の保坂健二朗主任研究員だ。

 フランスを本拠地とする「アートプライス」発行の報告書によれば、2012~13年の現代美術作品を購入した国別の総額ランキング10位内にはアメリカ、中国、英国、フランスやトルコ、カタールなどが入り、日本はランク外だ。

 今年1月には中国・上海にコレクター資本によって広さ9000平方メートルの巨大な「YUZミュージアム」が発足したほか、英国のサーチコレクションは、20年も前から無名アーティストを発掘しては、展覧会というデビューの機会を提供し、作品の販売まで手がける育成事業を続けている。

 新たな評価機関として

 保坂主任研究員は「昔のパトロンは作品を買い支えるだけだったが、最近のコレクターは展覧会まで開き、新たな評価機関としての存在感を示し始めている」と分析する。

 チェン理事長もインタビューの中で、アメリカやヨーロッパの美術館や文化機関が、コレクターの資本調達やマネジメントの能力を評価し、評議員に加え始めていることを指摘した。

 思い起こせば、フランス革命以降、王侯貴族の美術品が流出したのが、美術館誕生のきっかけ。「ホワイトキューブ」と呼ばれる美術館に作品が展示されるようになってから、せいぜい100年。コレクター(個人)が美術品を所蔵していた歴史の方が圧倒的に長い。現代美術界は、コレクターが“自分だけの宝”を収集する情熱やエネルギーを取り込むことで、新たなパワーを生み出す時にきているのかもしれない。(原圭介/SANKEI EXPRESS

 【ガイド】

 ■「現代美術のハードコアはじつは世界の宝である展-ヤゲオ財団コレクションより」 8月24日まで、東京国立近代美術館(東京都千代田区北の丸公園3)。一般1200円。月曜(7月21日は開館)、7月22日が休館。問い合わせはハローダイヤル(電)03・5777・8600。

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