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オランダ マウリッツハイス王立美術館 大改装終了 帰ってきた「少女」

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オランダ マウリッツハイス王立美術館 大改装終了 帰ってきた「少女」

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約2年間に及ぶ改装工事を終えたマウリッツハイス美術館の2階広間=2014年6月19日、オランダ・ハーグ(内藤泰朗撮影)  【アートクルーズ】

 「北のモナリザ」-。オランダ絵画の巨匠、ヨハネス・フェルメール(1632~75年)の名作「真珠の耳飾りの少女」は、そんな異名をもつ。至近距離から眺めていると、肩越しにこちらを向く絵画の中の少女に逆に見つめられているような不思議な感覚に襲われた。

 オランダ・ハーグの中心にあるマウリッツハイス王立美術館が約2年に及ぶ大改装工事を終えて報道関係者らに内部を公開。作業員たちがはしごに登り新しいシャンデリアを調整したり、掃除をしたり、金箔(きんぱく)を貼ったりと、6月27日のリニューアルオープンに向けて最後の仕上げ作業を行う中で鑑賞した。

 青いターバンが印象的な少女とは初対面。見る場所を変えても、その瞳は追いかけてきた。わずかに開かれた唇から何を語りかけようというのか。空想しながらハーグの「宝石箱」と呼ばれる美術館の神秘的な珠玉をしばし独り占めにした。

 改装工事中の約2年間、少女をはじめとする美術館所蔵の名作は、世界6都市をめぐる展示ツアーに出て、220万人以上もの来場者を集めた。特に東京での展覧会には、記録的な数の来場者が訪れ、大反響を呼んだという。

 帰還した少女を前にした美術館のエミリー・ゴーデンカー館長は「彼女がようやく改装の終わった家に帰ってきてくれてうれしい。少女は旅に出てさらに有名になったが、ここが彼女の家。自分の家で彼女の美しさは最も引き立つ」と語った。

 ≪色彩鮮やかに… よみがえった「聖地」≫

 この2年で「真珠の耳飾りの少女」をしのぐ勢いで有名になった小鳥がいた。オランダの画家、カレル・ファブリティウス(1622~54年)の名作「五色(ごしき)ヒワ(ゴールドフィンチ)」だ。かつては部屋の隅に展示されていたが、真ん中の位置に“出世”していた。

 足にチェーンをつけた五色ヒワが、エサ箱の上に乗っている場面を描いた小さな絵だ。それがモチーフになったドナ・タートの小説「五色ヒワ」が今年4月、米ピュリツァー賞フィクション部門を受賞。そのときにニューヨークで絵画展が行われていたことから一気に有名になったという。

 しかし、ファブリティウスは火薬爆発事故で若くして死亡。五色ヒワはわずかに残る10点余りの作品の一つだそうだ。光と影の使い方が巧みで、耳飾りの少女とともに、名作「デルフトの眺望」を生んだフェルメールに強い影響を与えたとの見方が強まっているという。

 内覧会に来ていたフェルメールファンで知られる生物学者の福岡伸一さん(54)は「ファンにとってこの美術館は聖地。フェルメールとファブリティウスはどんな関係だったのか、少女は何を見ているのか…。想像するだけで楽しくなる夢の空間だ」と話した。

 美術館によると、偶然、隣の建物が貸し出されたことで実現した大改装工事。政府支出のほか、展示ツアーや宝くじからの収入、大企業・個人の寄付で総工費3000万ユーロ(約42億円)を捻出し、17世紀の雰囲気を壊さないように改装する前代未聞の工事が行われた。

 黄色にくすんだ絵画は修復され、描かれた当時の鮮やかな色彩がよみがえった。模様が入った緑や水色のシルクの壁も作品の魅力を引き立てていた。

 生まれ変わった美術館は、歴史的な外観はそのままに本館と新館が地下ロビーでつながったことで、正面玄関の隣に新設されたガラス階段で館内に入れるようになった。本館の常設展に加えて、倍増した空間では、企画展やワークショップ、イベントまでできる現代的な空間に仕上がっていた。

 オランダ絵画の傑作を集めた“聖地”は、新たな魅力をぎっしり詰め込んだ「宝石箱」に変身していた。(文:ロンドン支局長 内藤泰朗(やすお)/SANKEI EXPRESS

 ■マウリッツハイス王立美術館 オランダ領ブラジルの総督を務めていたヨハン・マウリッツが17世紀前半に建設した私邸を王室が入手し、1822年に美術館として開館。フェルメールやレンブラントなどオランダ絵画の黄金時代とされる17世紀の作品を中心に、ルーベンスやヴァン・ダイクらフランドルの巨匠の作品を所蔵。日本人観光客も多く訪れる。改装では、1644年に完工した建物の色を再現。今月(6月)27日から一般公開が再び始まる。

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