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「反復」と「忘却」の構成 現代美術にも影響 MOTコレクション特別企画「クロニクル1995-」

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「反復」と「忘却」の構成 現代美術にも影響 MOTコレクション特別企画「クロニクル1995-」

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都築響一≪「フルーツバス停_『珍日本紀行』より》1993年(東京都写真美術館蔵、提供写真)  【アートクルーズ】

 阪神大震災や地下鉄サリン事件が起きた1995年。社会的、文化的な節目となったと言われるこの年とそれ以降の現代美術を振り返るMOTコレクション特別企画「クロニクル1995-」が、95年に開館した東京都現代美術館(東京都江東区)で開かれている。郊外、バッドテイスト、戦後50年、世紀末、パーソナルな日常など、世相を映したキーワードが、作品を読み解くキーワードだという。

 展覧会は「about1995」として95年前後の作品を、「after1995」として、95年から現在までの作品を分けて展示している。

 大震災、オウム…

 aboutは、ホンマタカシ(1962~)の代表作「TOKYO SUBURBIA(東京郊外)」シリーズから始まる。バブル経済とともに開発され、変貌してきた「郊外」を映し出した作品。また、都築響一(1956~)が写す郊外の建物や橋などでは、カエルやイチゴがあしらわれたキッチュで「バッドテイスト」(悪趣味)な文化が登場する。

 95年は「戦後50年」という節目にも当たり、戦争を知らない世代の会田誠(1965~)が「戦争画RETURNS」で、「意味の真空状態」を言いながら、戦争を“無機質”に表現した。

 ノストラダムスの大予言や、オウム真理教のハルマゲドン(最終戦争)が話題になり、「世紀末」ムードが社会を包み込んでいた中、現実に阪神大震災と地下鉄サリン事件が起こる。ヤノベケンジ(1965~)は自己防衛機能を備えたスーツを着てチェルノブイリを訪れるなどの「アトムスーツ」シリーズを展開。

 野茂英雄のメジャーリーグ活躍に象徴される「グローバリゼーション」もアーティストに影響を与えた。小沢剛(1965~)は、モスクワ、チベット、中国・天安門などを駆け巡り、地蔵を配置する「地蔵建立」を続けた。

 身近で壊れやすい素材を使って表現する「フラジリティ」もキーワードだ。髙柳恵里(1962~)は、ぬれた使い古しのぞうきんを乾かして固め、美術からかけ離れていた素材から作品を生み出す。「パーソナルな日常」がモチーフになるのも、このころの特徴。毎日出合う犬や風景を描いた小林孝亘(1960~)、見る者を見つめ返す少女や犬を描く奈良美智(1959~)は、弱い存在の不安まで作品に投影させている。

 非日常求めず

 特別企画展にちなんで今月(6月)14日に開かれたシンポジウム「1995年に見えてきたもの」には、早稲田大教授の佐々木敦氏(批評家)、多摩美大教授の椹木野衣(さわらぎ・のい)氏(美術批評家)、ライターの速水健朗(はやみず・けんろう)氏(編集者)、国立新美術館副館長の南雄介氏が出席。1995年の社会が現代美術に与えた影響を検証した。

 東京都現代美術館の学芸員として99年に、現代作家の「MOTアニュアル1999ひそやかなラディカリズム」を開いた南氏は、全体的な創作の傾向として「視覚的なボリュームの欠如や生活に結びついた日常性、さらには、小ささ、細さ、軽さ、白っぽさ」を挙げた。

 そうした傾向は、91年のバブルの崩壊や阪神大震災、地下鉄サリン事件の影響と無関係でない。およそ起こりえないと思っていた惨禍が実際に起きてしまったことで、椹木氏は「アートにも非日常的なものを求めなくなった」と分析する。

 佐々木氏も、昭和の終わり・ベルリンの壁崩壊(89年)から20世紀の終わりに(99年)挟まれた「世紀末」90年代の真ん中で大きな出来事が起きたのは、「経済だけでなく、オウムのような80年代のネガティブな問題も、臨界に達し、はじけた」と指摘した。

 とくに現代美術では91年、羽田空港ちかくの大森にオープンした大型ギャラリー「レントゲン芸術研究所」が、ネオ・ポップ・ムーブメントの拠点となり、村上隆や会田誠、小沢剛らがデビューしていった。そのムーブメントを、過去のオリジナルから情報やイメージを積極的に作品に借用する理論「シミュレーショニズム」で援護射撃したのが椹木氏だ。

 しかし95年には、バブル経済破綻の影響からくる資金不足から、レントゲン芸術研究所が閉鎖。椹木氏は「95年以降クレージーで面白い作品が少なくなった」と振り返る。一方で、95年ごろから現代美術の作品が買われる風潮、環境が整ってきたとも指摘した。

 「after1995」では、今では珍しくないデジタルカウンターやパソコンを使った作品も展示している。速水氏は「1995年を起点に、今の状況を変えているものも出てきた」と前向きにとらえる。

 しかし椹木氏は、日本の歴史が西洋のような「蓄積」ではなく、「反復」と「忘却」で構成され、美術にも影響してきたと指摘。東日本大震災を含めバブル崩壊後も地震が繰り返し発生、世界的にはテロが蔓延している社会情勢を挙げ、「95年の出来事は事後ではなく、事前ととらえるべきだ」と警鐘を鳴らした。(原圭介/SANKEI EXPRESS

 【ガイド】

 ■MOTコレクション「クロニクル1995-」 8月31日まで、東京都現代美術館(東京都江東区三好4の1の1)。一般500円。月曜休館(7月21日は開館で翌22日に休館)。問い合わせはハローダイヤル(電)03・5777・8600。

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