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計算された軽妙さという魔法 「デュフィ展」

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計算された軽妙さという魔法 「デュフィ展」

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【デュフィ展】「ニースの窓辺」1928年_島根県立美術館。(C)ADAGP、Paris&JASPAR,Tokyo,2014_E0972  【アートクルーズ】

 20世紀フランスを代表する画家、デュフィ(1877~1953年)の回顧展が6月7日から、Bunkamuraザ・ミュージアム(東京都渋谷区道玄坂)で開かれる。明るく軽妙なタッチで「生きる喜び」(joie de vivre)を表現したデュフィ。独自の画風を生み出すまでに画家が葛藤した苦悩や試行錯誤にまで迫る展覧会となっている。

 デュフィの絵を見るたび、いつも思ってきたことがある。「こんなに自由闊達(かったつ)に絵が描けたら、どんなに楽しいだろう」。例えば「ニースの窓辺」では、輪郭線から色がはみ出し、「ヴァイオリンのある静物:バッハへのオマージュ」では、花や楽器を描いた線が、音楽に合わせるようにリズミカルに踊っている。

 青と緑、黄色と紫、赤と黄色の色面同士が明るく、しかも美しく調和し、描かれた線のスピードや柔らかさが心地よい。線の美しさは、日本の磁器・伊万里(有田)に描かれた職人の筆の達者さにも通じるものがある。デュフィが日本で愛され続けるのは、この軽妙洒脱(しゃだつ)さに加え、あこがれの国フランスの香りがあるからだろう。

 しかし、デュフィの画業の経歴を知れば、こうした画風は、さまざまな経験を積んだデュフィが、苦心の末に編み出した「魔法」だということに気づく。

 デュフィが、自分の画風を確立したのは、1920年以降、40歳を過ぎてから。それまでの約20年間は、苦悩と試行錯誤の日々だった。

 色面が光を表す

 新境地を開くきっかけとなったのが、布地などのデザイン「テキスタイル」、とくにファッションデザイナーのポール・ポワレ(1879~1944年)との出会いだ。Bunkamuraザ・ミュージアムの宮澤政男チーフキュレーターは「その出会いがなければ、今のデュフィはなかった」と言い切る。

 ポワレは、木版画を手がけていたデュフィを見初め、ファッションの生地のプリントに、デュフィの絵柄を採用した。宮澤チーフキュレーターは「生地のプリントで生じる色のずれやにじみが、色彩と輪郭線(フォルム)が自律する(別々に描かれる)デュフィの独特な画風につながっていった」と指摘する。

 デュフィは、印象派の巨匠・モネやピサロと同郷の港町、ルアーブルで生まれた。奨学金でパリの美術学校に進み、画家を目指す。

 郷里の先輩たちの印象派に憧れたあと、マティスらのフォービスム(野獣派)、ピカソらのキュービスムにも影響され、一時キュビスムではジョルジュ・ブラックと制作旅行にいくほどのめり込んだが、色彩を極端に制限し、形の構築を追求するキュービスムには満足できず、色彩豊かな画法へと回帰する。変遷は、「トゥルーヴィルのポスター」や「レスタックのアーケード」の作品に顕著だ。

 そして、デュフィがたどり着いた「絵の具の色が光を生む」との独自の理論では、色面が光そのものを表し、描かれる建物や人物にも個別の光や影がつけられていない。従来の絵では物の輪郭の中に塗り込められていた色も、輪郭外に解放された。これはデュフィ以外には見られない画法となった。

 しかし、画面から感じられる軽妙さとは裏腹に、デュフィは、1枚の絵を完成するために、何十枚ものスケッチやデッサンを繰り返した。スケッチやデッサンで十分に試され、計算されたうえでの自由闊達さ。だからこそ、見る者の心を弾ませる“魔法”がかかり、簡単にはまねできない絵に仕上がっている。

 時代の流れをつかむ

 デュフィが活躍したのは、アールヌーボーからアールデコの時代。芸術が、ものづくりと融合していく機運が高まり、ピカソらもそうしたように、多くの芸術家が多分野で表現の幅を広げた。一方で、19世紀後半から、レジャーが流行し、海辺での行楽や競馬、コンサート、万国博覧会などデュフィが描いたモチーフが市民層に定着していった側面もあった。デュフィはそうした時代の流れやムードをつかみ、成功に結びつけた。

 「テキスタイルの仕事をしたことや、軽く見える画風から、マイナーな画家と思われがちだが、彼が歩んだ画業を振り返れば、間違いなく20世紀主流の画家だった。それを知ってほしい」(宮澤チーフキュレーター)

 Bunkamuraザ・ミュージアムでは1994年9月にもデュフィ展を開いたが、展示は画風が確立した晩年のものが中心だった。今回は、フォービスムやキュービスムに影響を受けた作品のほか、デッサン、版画、服飾デザイン、陶器、家具など他分野の作品も含めた100点以上を展示し、デュフィが歩んだ画業の全貌を掘り起こす。(原圭介/SANKEI EXPRESS

 【ガイド】

 ■「デュフィ展 絵筆が奏でる 色彩のメロディー」 6月7日から7月27日まで、Bunkamuraザ・ミュージアム。一般1500円。問い合わせはハローダイヤル(電)03・5777・8600。

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