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色あせた「保守本流」

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色あせた「保守本流」

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首相官邸で梅娘の表敬を受けた安倍晋三(しんぞう)首相=2014年6月12日(酒巻俊介撮影)  【安倍政権考】

 どうにかこうにか高い支持率を保ち、外交・安全保障、経済などで、こうと信じる政策を推し進める安倍晋三首相(59)の政権運営をながめていると、戦後、自民党政治を特徴付けるキーワードとしてよく用いられた「保守本流」という概念が色あせてくる。これまで、「本流」とされたあらかたが「傍流」に追いやられ、「傍流」が「本流」となっているからだ。

 自民党史をひもとくと、「保守本流」といえば、吉田茂元首相の系統に属し、政治路線では「護憲」「軽装備」「対米協調」をとり、経済政策は財政出動によって需要創出する所得の再分配を重んじた。現在の額賀(ぬかが)派(平成研究会)、岸田派(宏池会)である。

 「本流」とされるにふさわしく、田中角栄(かくえい)政権から小渕惠三(けいぞう)政権に至る15人の首相のうち自民党総裁から首相に就いた12人をみると、7人が両派の領袖クラスであり、そうでなくとも両派が支持することで政権が誕生したケースが多く、表裏にわたり政界で影響力を保持してきた。

 ところが、森喜朗(よしろう)政権以降となると、8人の首相のうち、民主党政権の3人を除けば、4人が町村派(清和政策研究会)と、風景は一変する。町村派は、安倍首相の出身派閥で、祖父に当たる岸信介(きし・のぶすけ)元首相の流れをくんでおり、自民党では長らく、「保守傍流」と位置付けられてきた。

 ちなみに、岸氏は1952年、町村派の源流となる「日本再建連盟」を結成。スローガンには「自主憲法制定」「自主軍備独立」「自主外交展開」を掲げており、憲法観などは町村派の政治的立ち位置とほぼ重なる。経済政策でも、平成研などと異なり、市場原理主義を重視しているとされる。

 安倍政権は高い支持率を追い風に、集団的自衛権の行使容認に向けた憲法解釈の変更や、憲法改正の手続きを定めた96条の改正など、いわゆる「安倍カラー」に彩られた一群の政策課題を推し進めていく考えだ。対中、対韓外交でも腰砕けになるような素振りはさらさら見せない。

 自民党史にならって言えば、森政権以降、「保守傍流」が「本流」になったわけで、ことに第2次安倍政権で極まった感がある。となれば、現在の政治状況に照らすと、「保守本流の本家」が清和研いう見方もあながち的外れではない。

 もっとも、ある自民党幹部は「『保守本流』という言い方は、もはや政界では死語になっている。政界の本質をついていない」と指摘する。よしんば今は清和研が「本流」だとして、政策的志向の異なる宏池会の所属議員が安倍政権の外交・安全保障を担い、協力的な姿勢をとっている。つまるところ、「派閥間の政策的な差異が希薄になっている」と、この自民党幹部は言う。

 実際、安倍首相は2012年9月の自民党総裁選で、「安倍カラー」の政治理念を共有する超党派の保守系議員連盟「創生『日本』」に所属する自民党議員に担がれ、麻生派(為公(いこう)会)などの支持も得ることで、再選された経緯がある。所属する清和研からは町村信孝会長が出馬し、町村派は分裂選挙となった。

 野中広務(ひろむ)、加藤紘一(こういち)の両元幹事長ら安倍首相に批判的な大物議員が引退していたり、財政状況が逼迫(ひっぱく)しているため安易な財政出動が困難という制約もあったりして、「安倍カラー」一色が当たり前のような政治状況を醸している面もある。

 となれば、気になるのは、振り子がある一方に振れすぎてしまうと、その反動は大きく、どうかすると、安倍首相の後は混乱を招くということである。振り子の振幅が大きければ大きいだけ、混乱も増幅しかねない。(松本浩史/SANKEI EXPRESS

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