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寄り合い所帯の離合集散 もうたくさん

 ある野党の幹部と最近、意見交換していて非常にがっかりしたことがある。名は伏せるが、この幹部は野党再編志向の強い党に属している議員歴数年の若手議員だった。この党とはいつまでに組みたいとか、あの議員集団に声を掛けているが、誰々は来ないだろう、などといった足し算・引き算のような話は生き生きと熱く語る。一方で、話題が政策や理念になると急に目が濁り出す。

 「今の党をなくしてまで新しい党を作りたい理由は何か」と聞いても、「野党再編の旗は何か」と詰め寄っても「そんなものは後から考えればいいことだ」と言うばかりなのだ。

 「数の論理」の信奉者

 かつて旧民社党の委員長、春日一幸氏は「理屈は後から貨車で付いてくる」と発言し、物議を醸したことがある。海千山千のベテラン議員にはイデオロギーや政策より、現実的な判断を優先する「数の論理」の信奉者が大勢いた。政策や理念を尋ねる者がいれば「女学生みたいな、甘ったるいことをいってんじゃない」と本音をむき出しにしていたものだ。

 それでも実際に新党結成や政界再編に踏み出すときには、政治改革や地方分権、利権政治の打破といったスローガンで本音を包装した。その点、前述の若手幹部は誠実で正直なのかもしれないが、新党や野党再編の訴えも、家業を継承し活計の道を立てるためかと疑いたくなる。

 見えない旗印

 さて、日本(にっぽん)維新の会が分党を決め、橋下(はしもと)徹共同代表が率いる大阪維新の会系メンバーと、石原慎太郎共同代表ら旧太陽系を含むメンバーに分かれることになった。石原氏らは6月5日に新党結成の準備会を設置。7月下旬をめどに党名を確定し、新党を正式に設立することを決めた。新党は「自立、新保守、次世代」を理念にするという。

 憲法観や原発・エネルギー政策など重要政策で大きく食い違い、同一政党としての活動が難しくなった以上、分党して考えの合う勢力とともに出直すべきだというのは合理的だ。

 ただ、今回の分党で政界再編が進むという見方はやや早急ではないだろうか。生活の党の小沢一郎代表は4日、日本記者クラブでの会見で「日本維新が憲法そのものの考え方の違いで党を分かつことになった。(他の野党でも)集団としての考え方の整理が進む」と話した。

 今や政党の改編にかけては政界随一の権威ともいえる小沢氏の言葉だけに傾聴に値するが、野党再編には考え方の違いを認めて整理するだけでなく、再統合を可能にするほど新しく、かつ大きな旗印が必要だが、維新系も石原氏らも現段階ではそれを示せていないからだ。

 確かに、維新系は「大阪都」構想や地方分権など基本政策があり、石原氏らは自主憲法制定という主張を持つ。問題はこれらの政策や理念が他党を巻き込み、新しい再編の軸となるか、有権者の期待を集めるような旗にできるかどうかだ。もしそれができず、他に代わるものを打ち出せないなら、いくつもの前例と同様に衰退の運命は避けられない。

 民主党がたどった失敗

 民主党の閣僚経験者は「維新の今回の分党劇は民主党がたどった失敗と同じだ」と自嘲気味に語る。1998年に結党した民主党は政策や理念の違いから絶えず内紛がおこり、「寄り合い所帯」の批判は絶えなかった。一丸となれたのは「政権交代」の目標を掲げて戦った期間くらいで、政権与党になったとたんに瓦解(がかい)へ突き進み、寄り合い所帯批判が収まったのは皮肉なことに下野してからだ。

 与党は集団的自衛権の行使容認問題をめぐり難しい協議を続けている。今後50年間の日本の安全保障を左右する大事な議論だが、今のところ野党各党の出番はない。ならばまず、何度も不毛な離合集散を繰り返さないですむよう、しっかりとした旗印を作ることに専念してもらいたい。(佐々木美恵/SANKEI EXPRESS

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