SankeiBiz for mobile

日中関係は「今が底」 まったく「大人の国」らしからぬドタキャン

ニュースカテゴリ:EX CONTENTSの政治

日中関係は「今が底」 まったく「大人の国」らしからぬドタキャン

更新

東京都千代田区九段北の靖国神社 【安倍政権考】

 今月(2014年1月)中旬から予定されていた日中両国政府による交流事業が延期になり、両国関係はさらに冷え込んでいる。中国側は「内部事情」として理由を明示していないが、昨年(2013年)12月の安倍晋三首相の靖国神社参拝を念頭においての措置とされる。さっそく日本のメディアの中には首相の靖国参拝を批判する補強材料としているところもあるようだが、それは見当違いというものだ。

 大人げないドタキャン

 中国側が延期を通告してきた交流事業は、青年メディア代表団(2014年1月13~20日、90人)▽中学生訪日団(1月20~25日、30人)▽農村青年幹部代表団(1月20~27日、30人)の3つ。

 交流事業は、いずれも次世代を担う青少年が対象だ。中学生の交流では、日中共通の文化である書道を通じて親交を深めるなど意義深いプログラムも組まれていた。

 それが、年末年始をはさんだとはいえ、延期を通告してきたのは1月7、8日。出発日まで1週間を切っていた事業もあり、宿泊や交通などの受け入れ準備を考えると、まったく「大人(たいじん)の国」らしからぬドタキャンだ。

 確かに、中国外務省は、首相の靖国参拝直後の談話で「日本側は引き起こされる結果を引き受けなければいけない」と対抗措置を取ることをほのめかしていた。その通りの行動を起こした中国に対し失望こそすれ、改めて首相の参拝批判につなげるのは筋違いだ。

 一方で、中国は昨年(2013年)11月、尖閣諸島(沖縄県石垣市)上空を含む東シナ海の防空識別圏を設定し、中国海警局の船は尖閣周辺の領海侵犯を繰り返している。昨年(2013年)1月に中国海軍艦船が海上自衛隊護衛艦に射撃管制用レーダーを照射した問題は、これが自衛隊でなければ軍事的な衝突に発展してもおかしくない極めて危険な行為だった。

 それでも、日本政府は交流事業の調整を進め、与野党も各党派遣や超党派議連の枠組みなどで予定通り訪中し、対話を続けてきた。特に公明党は、山口那津男(なつお)代表の訪中からわずか数日後にレーダー照射事案が起きたが、それでも若手議員による訪中団を派遣した。もともと中国とは深い縁(えにし)があるとはいえ、その辛抱強さは皮肉抜きで特筆に値する。

 批判は筋違い

 中国は首相の靖国参拝を重大な挑発行為と見なしたようだが、他のアジアの主だった国は冷静だ。シンガポールのストレーツ・タイムズ紙は「関係改善の見込みは少ないと見切ったためだ」と報じ、首相が靖国神社の春季・秋季例大祭や「終戦の日」の参拝を見送ってきたシグナルを、中国側は真摯(しんし)に受け止めず、判断をミスした結果だと分析している。

 日本の外務省やメディアのなかには、こうした冷静な見方にくみせず、「中国があと一息で外相会談や首脳会談をセットしようとしていたのに、首相が壊した」(外務省筋)と不満を漏らす向きも散見される。これも見当違いだ。

 首相は第1次安倍政権で参拝しなかったことを「痛恨の極み」と繰り返してきた。再び首相となった上は、在任中に必ず靖国に参拝することを示唆してきたのだ。

 「あと一息」のトップ会談が今春か夏かは不明だが、仮に会談後に首相が参拝していたら、中国側は「安倍首相は裏切った」と憤激して、関係は今よりもこじれるだろう。野田佳彦政権は、2012年にウラジオストクで胡錦濤前国家主席と立ち話をした翌日に尖閣の国有化方針を発表し、胡氏は大いにメンツを失い、関係悪化に拍車をかけた例もある。

 日中双方が、「今が底」と認識できる状況に達した方が、その後、戦略的互恵関係の構築に踏み出しやすいはずだ。(佐々木美恵/SANKEI EXPRESS

ランキング