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政権弱体化と紙一重 頭悩ます人事

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政権弱体化と紙一重 頭悩ます人事

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 【安倍政権考】

 今国会の閉幕(6月22日)後に行われる内閣改造・党役員人事について、安倍晋三首相(59)はさぞ頭を悩ますことだろう。人事に踏み切ることは、順風満帆な政権運営を揺さぶる危うさと紙一重であり、自ら崩壊の素地をつくる皮肉な結果になる可能性もはらんでいる。

 振り返れば、2012年12月に発足した第2次安倍内閣は、デフレ脱却などを最優先に掲げ、「危機突破内閣」と銘打ち、政策課題の大部分にわたり一定の成果をあげ、高い支持率を維持してきた。不祥事や失言による閣僚の辞任がなかったことも、追い風となった。

 人事に当たっても、「お友達内閣」と失笑を買い、政権運営でつまずいた第1次内閣の反省がうかがえた。

 例えば、デフレ問題では、麻生太郎財務相(73)、甘利明(あまり・あきら)経済再生担当相(64)を起用。麻生氏には金融担当相も兼務させ、金融緩和策に打って出た。党重鎮の両氏はともに首相の「盟友」であり、党内はおろか中央省庁にもにらみが利く。

 下村博文(しもむら・はくぶん)文科相(59)や稲田朋美行政改革担当相(55)ら、首相が会長を務める超党派の保守系グループ「創生『日本』」のメンバーからの起用も目についた。「お友達」というよりは、政治理念を共にしている「同志」だろう。

 政局的な配慮もあった。石原伸晃(のぶてる)環境相兼原子力防災相(56)と林芳正農水相(53)は、12年9月の総裁選で争った相手であり、閣内に取り込み台頭を押さえ付けている。原発問題と環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)という、両ポストともなかなかに困難な課題を抱えているのがみそだ。やはり総裁選を闘った石破(いしば)茂幹事長(57)も、総裁選後の党人事で要職に就けた。

 想定される閉会後の人事を控え、ある自民党関係者は、首相の胸中を推し量り、こんな見立てをする。

 「自民党には、『閣僚適齢期』の議員が多く、改造で配慮しないと不満が出て政権が揺さぶられるという指摘がある。けれども、首相が起用したい『適齢期』議員がどれほどいるのか」

 憲法96条の改正、15年10月に予定される消費税率10%への引き上げ判断、中韓両国との関係改善…。首相が心を砕かなければならない課題は数え切れない。

 この関係者によれば、衆院議員は約40人、参院議員では約10人とされる「適齢期」議員には、一部を除き政策通で鳴らす、いわゆる「はまり役」は多くないという。「創生『日本』」組は5人程度いるものの、この自民党関係者は「首相のお眼鏡にかなっているのか、分からない」と言う。

 起用したい人材が乏しければ、おのずと改造幅は知れてくる。別の関係者に聞けば、首相は参院自民党の意向は十分に配慮する考えだとされる。参院枠は、首相を除く閣僚枠18のうち現在2なので応じやすい。けれども、衆院枠が小幅人事にとどまれば、首相に対する不満が増幅するのは請け合いだ。

 石破氏ら総裁選で対決した議員の処遇にも困りそうだ。党内には、政府側が政策決定を主導する「政高党低」への不満が根強く、彼らが現職ポストから外れれば、そうした勢力と結びつき、「反安倍」の機運が盛り上がる可能性もある。

 首相は党総裁に復帰して以降、「『古い自民党』からの脱却」を再三、唱えてきた。ポスト配分を求める派閥の意向など党内事情に配慮せず、こうと信じる政策の実現に向けた体制を敷くことで、世論の支持を得たいとの含意があるのは言うまでもない。

 党内への目配り、気配りにぬかりがあってはならない。その一方で、改造幅には限界がある。今は腹の中をおくびにも出さないけれど、さまざま思い巡らしているだろう。(松本浩史/SANKEI EXPRESS

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