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新春インタビュー 映画監督 河瀬直美さん(3) 「7代先へ」伝えたい大切なこと

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新春インタビュー 映画監督 河瀬直美さん(3) 「7代先へ」伝えたい大切なこと

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映画監督の河瀬直美氏=2013年12月10日、東京都千代田区(野村成次撮影)  ≪現代人にない、先人の知恵≫

 大きな観点で言えば、他者を認めて、他者との違いを自分の中に存在させることができると、平和がもたらされると思うんですよ。常に何かと何かを比べたり、自分と他者を比べて競争していると、生きるのがすごくしんどくなってくる。宗教観の違いも含めて他者を認めないと、国と国の間で戦争も起きかねません。

 だけど、他者と違いを認め合うことというのは、実行するのがとても難しい。そこには、自分が大切にしているものを失うような体験も含まれます。自分を押し殺して、自分が生きている時代の間に人々のためにやり遂げるべきことができなくても、次の世代にできていく形を作っていくというようなことです。人間って、長く生きてもたかだか100年。100年のうちに何ができるんだろう。次の世代の人たちにやりたいことをつなげば、200年というスパンで考えられるようになります。

 奄美大島には「7代先のことを考えて、ことを起こしなさい」という言い伝えがあるそうです。7代先というと、仮に自分が30年だけ生きるとすると、200年ぐらいのスパンで今を考えなさいということなんですよね。昔は自分たちが生きるために大地に果樹を植えるのではなくて、自分たちの孫が食べるためにおじいちゃんが植えてくれたとか。結構、そういうお話があるんですよ。

 現代人にはそういう発想があまりないなあとつくづく思いました。現代人は今がよければそれでいいという感覚が結構あり、それがすべて間違いとも言い切れないですが、7代先を見据えた時間軸はないですね。それは忘れてはならない先人たちの知恵ですね。「2つ目の窓」に出てくる少年と少女が純真無垢(むく)に生きてつながり合えることは、その先の世代をも豊かに育むことができるんだなと感じています。

 私は男女は絶対に違うもので、互いに理解しがたいものだと思っているのですが、映画に出てくるこの無垢な少年と少女が気持ち、精神、魂のレベルで本当につながり合えることを描ければ、結局は他者を認めることの大切さへと話がつながっていきます。

 そのことが奄美大島の大自然や文化とも融合していく。そんなところを映画に撮れればいいなと考えました。そこには生と死が隣り合わせとなっていますよ。2人を取り囲む大人たちの生と死ですよね。

 私は25歳のときに「萌(もえ)の朱雀(すざく)」(1997年、第50回カンヌ国際映画祭で新人監督賞にあたるカメラ・ドールを受賞)の脚本を書いたんですが、そのときにはすでに「映画を通して先人たちが遺(のこ)してくれたすばらしい伝統を大切にしていこう」と周囲に言っています。

 幼い頃から(母のおば夫婦である)おじいちゃんとおばあちゃんに育てられました。でも私が14歳のときにおじいちゃんは亡くなっちゃった。私の中に先人を敬う気持ちが生まれたのは、その出来事が一番大きいと思いますね。私、思春期の真っただ中で、そんな時に人が死ぬんだということが分かった。

 おじいちゃんからは「言い残しておきたいことがあるからカセットテープレコーダーを持ってこい」と言われたことがあります。私は絶対におじいちゃんは死なないと思ったから持っていかなかったんですよ。カセットテープレコーダーを持っていかなければ死なないとも思いました。でも、おじいちゃんは死んじゃって、言い残したいことを残せなかったんですね。

 その後、私は大人になってから映画と出会って、おばあちゃんを題材とした映画(1994年、ドキュメンタリー『かたつもり』、山形国際ドキュメンタリー映画祭奨励賞受賞)を撮ったんですよ。おばあちゃんの映像は残そうと思いましてね。死が前提ではなくて今を切り取ろうとしました。

 正直に言うと、私が「2つ目の窓」を映画にしたくなったのは、私がこの映画を撮りたかったからというよりは、おばあちゃんとおじいちゃんが背中を押してくれたからではないか…。そんな気がしているんですよ。「しっかりと後の世代に大切なものを伝えていきなさい」とね。(取材・構成:高橋天地(たかくに)、津川綾子/撮影:野村成次、写真家 別府亮/SANKEI EXPRESS

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